入院


もう本当、委員長さんってしつこい。
この間の沢田誘拐事件で、俺が学校無断欠席したのをまだ根に持って、事あるごとに言い掛かりをつけてくる。
無断欠席って言っても、担任とかには後からだけど報告したから、それは大丈夫だったんだけど……委員長さんだけは許してくれない。

“並中の生徒会長だったら、それなりの行動しろ”だとさ。
知らないよ。

大体委員長さんは俺が仕事してないみたいに言うけど、ちゃんとやってるんだ。今だってまさにお仕事中です。じろくんはバイトだから1人で。そう、1人で!
俺すごいいい子じゃん。
そりゃ委員長さんに比べたらやってないも等しいけどさ、でもあの人がいつも忙しいのは自業自得な気がする。だって現にこの前手伝わされた時に見た書類に、“並盛町予算案(改)”っていうのがあったんだ。思わず二度見したけど、あんまり深く考えないようにしたよね。
どう考えても中学生が処理していいものじゃないものが沢山混じっていた。あんなものにまで手出すからいつも大変なんだ。

「よし、今日の分終了!!」

いろいろと考えてる間に、お仕事完了しました。普通にやればそんな大変なことないんだよ。俺って要領はいい方だから。
ああ……でもそういえば何枚か委員長さんトコに持って行かなきゃならないやつあったんだ。忘れてた。
めんどくさいな………。じろくんいたら代わりに行ってもらうのに。せっかく今日はもう帰れるっていうのに、委員長さんトコ行ったらまたなんだかんだで手伝わされちゃうんだ。もう俺だって学習したよ。
……でも、これ渡さなきゃ後から文句言われるし。

………行くしか、ないよね。だけど足取りが重いよ。
あ゙ー委員長さんいませんように。
応接室の前でムム、と念じていると、勢いよく扉が開き。

――――ビュンッ!!

「ぎゃあ!!!」
「………なんだ君か。」

開いた先からまず出てきたのは、草壁さんでも委員長さんでもなく、銀色の棒だった。

「な……何すんのさ急に!」
「うるさい。ドアの前をいつまでもうろちょろしてるからだよ。不審者かと思うに決まってる。」

……学校内でそんな警戒する必要ある!?
まあ、委員長さんだしって言っちゃえばそこまでだけど。

「って…書類……ああもう!!」

当たり前だけど、さっき驚いて転んだ拍子に書類はぶちまけてしまいました。
委員長さんに拾うのを手伝わせようとするも、“嫌だ”の一言で跳ね返される。
なんで俺ばっかりやんなきゃなんないの!?

そう思い、グイ、と委員長さんの腕を引っ張る。いつもならしつこい、と睨まれて終わりなんだけど………。

「…………、え?」

倒れました。委員長さんが。
倒れたっても意識を失ったって訳じゃなく、尻餅をついただけなんだけどさ……それでも珍しい。俺委員長さんが自分の目線より下にいるの初めてかも。
熱でもあるんじゃ……と思い、ピタと額に触る。

「……熱いね。」
「普通だよ。」
「…………熱いよね?」
「これが僕の平熱だから。」
「うそつけ!!!!」

これ平熱だったらあんた人間じゃないから!あ、常人ではないことは重々承知してますけどね。それにこの人顔に出なさすぎ。ちょっとは苦しそうな顔すればいいのに……可愛いげないな。

「とにかく!保健室行きなよ。……てかもう帰れば?」
「保健室に行ってどうなる訳でもないだろ。家に帰っても同じ。」
「意味あるから。体やすめられるじゃない。どうでもいいから早くしなよ!全然力入ってないじゃん!」

人がせっかく心配してあげてるのに、委員長さんは聞く耳持たずだ。
それでもまだ諦めずに文句を言って、なお嫌だを繰り返す委員長さんに、“小学生か!”と言うと、遂に委員長さんが折れた。

「わかったよ。」

ため息混じりの声に、なんでまた俺がわがまま言ったみたいになってるんだ、と思う。じとっと委員長さんを見ていると、携帯を取り出し、どこかへかけはじめた。
3分以内に来なよ。との委員長さんのお言葉に、電話の向こうの相手が焦った声を上げるのが聞こえる。
誰だろ……草壁さんかな?

「どしたの?誰呼んだの?」
「救急車を呼んだだけだよ。」
「あーなるほど、救急車………って救急車!?」

思わず叫んだ俺に、委員長さんはうるさい、頭に響く、と文句を言う。
けど俺悪くないよね!?風邪ごときで救急車呼ぶなよ、迷惑だろ!てかこの人絶対救急車をタクシーかなんかと勘違いしてるでしょ!!

「僕だからいいんだよ。」

俺の主張に委員長さんが返した一言。
もう、なんだか……風邪ひいてても何してても委員長さんは歪みなく委員長さんでした。

そうやってぴったり3分後に来た救急車に乗り込む委員長さん。救急車から病院長と名乗る人が恭しく出迎えた時は正直ドン引きだ。………この人、一週回って只の馬鹿だと思う。風邪ごときで。

「ま、お大事に。」
「何帰る気でいるの。君は書類まとめたら病院に持ってくるんだよ。」
「何で俺が!?」
「君の提案で僕は入院するんだよ。」
「入院!?診察だけじゃなく入院する気!?ていうか俺そんな提案してないからね!」
「持ってこないなら君一人でやれよ。」
「だから何で俺が!?
てかできるわけないでしょ!」

委員長さんの指示がなきゃ、こんなワケわからない書類どうともできる訳ない。
だけどめんどくさい。なんてめんどくさい。

「じゃあ僕は先に行ってるから。」
「最っっ悪!!来るんじゃなかった!」

そうやってサイレンを鳴らして走り去る救急車。そんなお馬鹿さんの為にサイレンなんて鳴らさないでよ、迷惑だ。
ぶつぶつ言いながらも適当な紙袋に書類を詰め込む俺はとても良い奴だ。こうなったら嫌がらせに持てる分だけ持っていってやる。そうやって準備をしていたら、救急車に気付いた草壁さんがお見舞いの品を俺に渡す。急いで買ってきたんだって。

「……そんなの必要ないよ。只の風邪だよ?」
「いえ、委員長はいつも激務をこなしていますので。心ばかりです。」
「はあ、すごいね。
あ、というか折角お見舞い品用意したなら、草壁さん持っていってよ。ついでにこの書類も。」
「とんでもない。委員長の命に逆らえません。是非とも。」
「えー………。」

持っていってくれたらいいのに。
そんな事を思っても、草壁さんに「よろしくお願いします」と頭を下げられれば言い返せない。俺、何かこの人に弱いんだよ。謎にこの人、委員長さんだけではなく俺にまで敬語使うし。なんなんだ、俺を尊敬してるのかな。

「でもそしたら結構な荷物だ。持てるかな。」
「それでは荷物持ちに病院まで一人付かせましょう。」
「え、それするなら俺行かなくてよくない……?」
「委員長のお言葉ですので。」
「むむむ……。」

何とも頑なだ。
逆らえそうにないので荷物だけ一緒に持ってもらったが、その人は病院につくとあっさり帰ってしまった。折角来たんだから委員長さんに顔見せていけばいいのに。風紀委員って、何だか委員長さんを慕ってるんだか慕ってないんだか分からないなあ。

「………そういえば委員長さんの病室聞いてない。」

受付で聞けばよかった。忘れてたよ。

「あれ…?メイノさん………?」
「……沢田…?」

そこには包帯グルグル巻きの、なんとも哀れな姿の沢田が。
聞けば、何やらイロイロあったらしく(すごく遠い目をしていた)、怪我で入院したものの、病室で騒ぎ過ぎて追い出されたそうな。
……うん、まあ、ドンマイ。

「でもなんか相部屋でもいいって人がいて、今そっちに移るところなんです。」
「…親切な人がいてよかったね。」

これで病院自体追い出されたとか言ったら、もう涙無しでは聞けない話だ。

「それで、メイノさんはどうしてここに?」
「あ!そうだ!
……うん、ちょっと人捜し。届け物があるのに病室聞くの忘れちゃって………俺受付行って聞いてくるからじゃあねー。お大事に。」

本当お大事に、だ。
今沢田に委員長さんがこの病院にいるなんて言ったらショックでぶっ倒れそうだし……言わない方が正解だよね。

俺も珍しく親切心を働かせる程、今回の沢田は哀れな姿だった。委員長さんのとこに色々届けたら、ジュースでも買ってあげに行こう。
後でまた受付で聞かなきゃな。親切な人のところでうまくやれてるんだろうか。沢田って不幸体質だから、大丈夫だといいんだけど。

「ひいぃ!!誰か助けっっ……ぎゃーーー!!!」

そうそう。こんな風に悲鳴あげてなきゃいいよね。

「……ってはあ!!?」

ある病室から響いてきた沢田の悲鳴。ある病室とは俺の目的地、委員長さんの病室だ。

「ちょっと委員長さん何して………って沢田ーーー!!!」

慌てて委員長さんトコのドアを開くと、沢田が委員長さんにぼこられてた。

「ちょっと委員長さん!あんた何してんの!?」
「ああ…君か。何ってゲームだよ。ゲームで彼が負けたから、咬み殺してあげてるんだ。」

ゲーム!?ただの一方的な暴力だろコレ!だって沢田全然楽しそうじゃないよ!?
沢田の相部屋の人って委員長さん?この人絶対暇だったから殴りたかっただけだ!

「痛い痛い痛いギャーーーー!!!殺されるーーー!!!」
「もうやめてあげてーーー!!」

沢田ただでさえ怪我してるのに!……てかあまりにも不幸体質すぎるこの子!委員長さんはこの沢田の悲惨さに何も感じないのか!

「委員長さん!!あんた風邪だったらおとなしく寝とけ!病院で患者増やしてどうすんのさ!……沢田、大丈夫?」
「ゔぅ……、助かりました…メイノさん……。」

俺基本はこういうのほっとく性格だけどさ…沢田とは満更知らない訳でもないし、さっきから言ってるけどあんまりにもあんまりだろうから、ね…?
いまだにガクガク震えている沢田をいい子いい子してあげると、沢田が顔面蒼白で、ひぃ!と叫び声をあげた。

「…え、何?どしたの沢田。」
「あー!なんでもないです!ええ、本当!!俺もう失礼します!」

とめる間もなく、猛スピードで去っていった沢田。
……俺そんな顔怖くないよ。むしろカッコイイよ俺。じろくんは目つき悪いけど俺普通。なんで逃げんのさ沢田。

「………なんで俺逃げられたの?……って委員長さん顔怖っっ!目つき悪っっ!」
「うるさいな…。何ならあの草食動物の代わりに咬み殺してあげようか?」
「嫌に決まってるでしょ。なんでそんな機嫌悪いのさ。
……まあ、邪魔したのは悪かったけどさぁ、俺は書類届けに来てあげたんだよ?」

お礼はないのかお礼は。
……実際委員長さんにありがとうなんて言われたら鳥肌ものだけどね。そう言って書類を差し出すと、フン、と言いながらひったくられる。

「あんた本当ムカつく!礼儀というものを知らないのか!!」

あまりにもムカつくから、草壁さんから渡されたお見舞い品の中のミカンを投げる。言わずもがなキャッチされたけどね!

「君に対する礼儀は知らないね。…君こそ食べ物を人に投げるなよ。大体それ何。」
「これ?草壁さん率いる風紀委員の人たちからのお見舞い品。一応渡しとくから。」

草壁さんから託された果物の入った紙袋を委員長さんに押し付けると、委員長さんはがさがさと中をあさる。

「はい。」

………?
差し出されたのは果物ナイフ。……、何となく要求してることはわかったけど、人に刃物を向けるな。………それに、

「いや、自分でやってよそのくらい。めんどくさいなら皮ごと食べなよ。」
「君じゃあるまいしそんな下品なことしないよ。大体手土産も何も持ってこなかったんだから、これくらいいいでしょ。」

………殴りたい。撲りたい。
ここでナイフ奪って委員長さん刺しても俺罪に問われない気がする。だってわざわざ届けに来てあげたのに、なんなのさこの人。
……でもここで委員長さんの言うこと聞いちゃう辺り、俺って弱すぎる。文句はもちろん言うけど、この人全く聞く耳持たず、なんだもん。


「よし!見ろ委員長さん!!これもはや芸術じゃない!?」
「……どうせ食べれば無くなるのに…君馬鹿?」

最初はいらついてて、グルグル皮むいてただけだったけど、だんだん楽しくなってきた。
俺他の事は人並み程度だけど、手先の器用さだけはじろくんも絶賛するくらいだからね!だから、料理はじろくんのがおいしいけども、包丁とか盛り付けとかは俺のがうまいんだ。唯一じろくんに褒めてもらえることなので自信は満々です。

「…しかも何これ。りんごのウサギならわかるけどなんで猫がいるの。無駄に精密だし。」
「俺が猫好きだからだよ。犬より兎より猫派なの。ってあ゙ーーー!!!」

俺がしゃべっている内に、委員長さんが俺の力作を食べた。しかも一口で!

「あんた何してくれんのー!食べるにしたってもっと味わって食べてよ!!」
「味は普通のりんごと変わらないよ。」
「そういう問題じゃなーい!!」

俺の超大作のにゃんこが…。せめて写メくらい撮りたかったのに。
グズグズ嘆くと、ああ、と委員長さんが思い出したように言った。

「そういえば君携帯持ってたんだね。ちょっと寄越しなよ。」
「は?なんで…やだよ…。」
「いいから早くしろ。」

だって委員長さんのメアドなんて知りたくないし、俺のも教えたくないし…。教えたが最後、絶対今より呼び出し回数が増えるに決まってる。
ギュ、と携帯を死守するためかばんを抱きしめるが、その抵抗はやはり無駄に終わった。

「あー!ちょっと何すんの!返せ!!」
「うるさい、ちょっとくらい黙ってなよ。知らないと色々不便なんだから。」

手を伸ばすと、どこからともなく出てきたトンファーでガツンと殴られる。
………痛い。
委員長さんいわく手加減してるらしいけど、うそだ。痛いもん、物凄く。じろくんのげんこつくらい痛い。
返してもらった携帯には、しっかり“雲雀恭弥”と登録されてあった。

ガックリだよ、もう。

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