誘拐


昨夜は色々なことがあってあまり眠れなかった。その原因の一端を担っているディーノさんはグッスリ寝たらしく、朝起きたらケロッと元気になってたのは何故だ。
マフィアってやはりタフなんだと思う。
……まあ、俺が悩んだところであの人たちの間に何があったのか分かりっこないし、触れない方がいいことというものもあるのだから仕方ないだろう。最初から、不思議な人たちとは思ってた。だから、何かあっても仕方ない。
それに、本格的に俺が知らなければいけないことだとすれば、例え俺が拒否しようとしまいと、リボーンが言ってくるはずなんだ。

………何だかんだ言って、俺って結局他人任せな奴だよなあ。

そんな風に思っても、分かっていても、直せないけど。

それに、あの人たちの間に何があったかわからなくても、日常は普通に進んでいくんだ。

獄寺くんは“ぶらぶらしてたら俺の家に来た”らしく、今日はそんな彼と、偶然会った山本と登校中だ。
獄寺君はやはりマフィア事情に詳しくて、獄寺君の話によると、キャバッローネファミリーの財政をディーノさんが立て直したのは有名な話で、今じゃボンゴレの同盟ファミリーの中でもかなりの勢力らしい。
やっぱりすごい人なんだ。俺の人生、こんな規格外の人たちと知り合ってやっていけるのかなあ……。

「なあ、ツナ……マフィアって……、」
「え、あ!ち、違うんだ、山本!」

何が違うんだとツッコミを入れたいところだが、今はとりあえず誤魔化さなきゃ。山本はせっかくの「普通」の友達だ。変なことな知られたくない。
……山本も結構規格外な奴ではあるけど。

「変な名前だな、お前のおじさんの会社!」
「へ!?」

……やはり山本も普通ではなかった。
そもそも今までのリボーンとの「遊び」で生きている時点で普通じゃないのはわかるが。

「………ん?でも“キャバッローネ”って確か会長の名字じゃなかったか?」
「あ、うん。そうだよ。ディーノさんは俺のおじさんじゃなくて、メイノさんのお兄さんなんだ。」

ちなみに会社でもありません。けどそれは言わない。

「え!?そうだったんですか!?」

山本と一緒に獄寺くんが驚いてるけど、なんでマフィア事情に詳しいのに知らなかったの…?
そう聞くと、あいつの名前なんか興味ないんで知りませんでした!と答えられる。

うん、さすが獄寺くん。歪みない。

「会長って兄貴いたんだな。でも納得だな、会長ってなんか弟っぽいしな。」
「山本……メイノさん年上だよ?」
「そんなんじゃなくてよ……ほら!獄寺も姉ちゃんいるだろ?とりあえず、獄寺も会った時こいつ兄弟いるんじゃね、って思った訳よ。そういう空気あるんだよ、わかんね?」
「うーん?」

一人っ子だからだろうか?俺にはそういうのはよくわからない。山本も一人っ子だけど。
………てかメイノさんはともかく、獄寺君って弟っぽいかな?

「いいよなあ、俺も兄弟いれば楽しいだろうなって思うぜ。」
「どこがだ野球馬鹿!!姉貴のせいで俺がどれだけッ!」
「あはは……、」

他愛のない話をしていると、心なしかトボトボと元気なさそうに歩いてるメイノさんの後ろ姿が目に入る。
昨日の今日で多少……気まずい、かも。

って、なんで俺が気まずいなんて思うんだよ!俺悪いことしてないし!

「お、おはようございます!メイノさん!」
「ん?ああ、おはよう。」

それなりに気合いを入れて声を掛けたのだが、反応は普通に普通だった。
あれ?……俺が気にしすぎてるだけか。

まあ、前からこの人びっくりするほど切り替え早いからなあ。そこの所はディーノさんと似ていると思う。キャバッローネの血筋だろう。

「山本、部活朝練ないの?珍しいね。」

ニコニコと言うメイノさんはやっぱりいつもと変わらない。まだ昨日のあれから24時間も経ってないのに……すごい。

「会長こそ珍しいじゃんか。今日は一人なんだな。」
「え、どういうこと?」
「あんなツナ、俺いっつもグラウンドいるからさ、会長は普段副会長と一緒に登校してんの見てるんだ。
逆に俺、副会長と一緒じゃねえ会長ってあんま見たことねえなあ……本当仲いいよな、あんたら。」
「………、や、やまもと……」

最初のうちニコニコしていたメイノさんが、山本の話を聞いてるうちにどんどん無表情になっていく。まずくないか、とは思うが、あからさまに止めるのもおかしい気がして、控えめに名前を呼ぶのにとどめる。
山本がキョトン、と俺を見てくるのを横目に見つつ、メイノさんに掛ける言葉を考えていると、突然メイノさんが顔を歪め、次の瞬間にはうわああん!!と泣き出した。

「山本の馬鹿野郎ーー!!お前なんか大ッ嫌いだ!!」
「会長、落ち着けって。な?何があったんだ?」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!俺だって我慢してたのになんでそんな人の心抉るようなこと言うんだ馬鹿!」
「……十代目、何スかコイツ…」
「さ、さあ……。」

昨日の……ディーノさんのことで何か傷ついてるのかと思ったが、メイノさんは天名さんの名前が出た瞬間泣き出したから、おそらくはディーノさんに対してではないらしい。

「え……と、大丈夫ですか?………、昨日、あの後何か……?うわあ!?」
「そう!!聞いてよ沢田!
じろくんってば俺の言うこともろくに聞かないで……ッこんなに大好きなのにーー!!」
「テメッ…十代目から離れやがれ!」
「うっさい獄寺!俺に優しくない奴は引っ込んでろ!」
「なんだその言い分は!?」

話しかけると胸倉をつかんで顔をグっと近づけられる。しかしその仕草は喧嘩を売ってくるようなものでは無かったから別に良かったのだが、言葉の内容………よく理解できなかったが、若干馬鹿らしいと言えるものだった気がする。
獄寺くんが俺からメイノさんを引き離す。
獄寺君と言い合うメイノさんを遠巻きに見ながらそんなことを考えていると、次の瞬間俺の体は縄でグルグルに縛られていた。

「うわあああぁあぁ!?」

余りに一瞬の出来事に抵抗もできず、俺は車の中に引きずり込まれた。




「十代目!?」
「ツナ!?」
「沢田……?」

俺と獄寺がケンカしている間に、沢田が叫びながらどこかへ行ってしまった。
………ああ、この言い方だと沢田が危ない人だ。簡潔に言うと、さらわれたのかな。沢田は縛られてたみたいだし。早業すぎてよく分からなかったけれど。

獄寺と山本は焦ってるけど、俺は今そんな余裕ないくらい傷心してるから。じろくんのばか。
沢田が行ってしまった方向を見ていると、どこからともなくリボ先生が現れた。

「ありゃ、ここら一帯を占めてる桃巨会の車だな。………お前らの敵う相手じゃねぇ。警察に任せろ。」

あーらら。先生らしくないセリフだこと。
先生がそういう言葉言うときって、何か裏あるように思えちゃうよね。
……というかなんで桃巨会とやらが、沢田を誘拐するのか。先生は案外無差別にボンゴレについて言いふらしているように見えるが、実際そうではない。言うのは一般人の、ファミリー酵母のみだ。その筋の人間には言っていないし、ばれるようなヘマもしていないだろう。
当然だ。そうしないとまだ未完成の沢田はすぐに殺されてしまう。
……桃巨会さんが、個人的に沢田から身代金でも巻き上げようとしているという可能性も、ないわけではないけれだ。

まあそこはそんなに深く考えないのが獄寺と山本クオリティ。“警察になんか任せられない!”とか何とか言って、走って追い掛ける。

……素直なのはいいことだよ。皮肉だけどね。

「お前は行かねぇのか。」
「…俺が行っても何もできないよ。それに俺今先生のいたずらに付き合えるほど元気じゃないの。」
「これは俺が仕掛けたことじゃねぇぞ。」
「………へー。」

そこに別に興味はないから、気のない返事を返す。
そこまで話した時、さっき沢田をさらった車が俺と先生の前に止まり、案の定中から沢田が出て来た。
……ついでに兄さんも。何やってんだあんた。

兄さんは獄寺と山本を試したかったらしく、結果は、2人の行動はとても満足のいくものだったようだ。
うれしそうに、“たいしたもんだ”と言っている。

………俺関係なくない?もう行っていいかな?
完璧遅刻だ。
連絡してないし、俺ら全員委員長さんに怒られちゃうよ。

それにじろくんは多分学校にいるはずだから、早く会って謝らなきゃいけない。

………話聞いてくれなかったらどうしよう。
昨日からずっと無視されてるから。

会って、謝らせてもくれなくて、“メイとはもう絶交だ”とか言われたらどうしよう……。

「……そしたらもう俺死ぬしかない!!」
「何言ってんだお前。」

絶望して悲鳴をあげるも、先生には冷たく返される。
……なんだよ、最近先生俺に冷たくないか。フン、と一息ついてちょっと前からちらちらと感じる視線に応える。

「……何、兄さん。」
「…お、おう!メイノ……昨日は悪かったな、なんか天名怒らせちまって………。」

―――ピシ。
この効果音が比喩なんかじゃなく、本当にイラついたときに自分の中で鳴るものだったのかと発見する。……いや、兄さんにイラついたわけじゃない。だって、………昨日のことは全面的に俺らが悪いのはわかってる。じろくんが急に怒り出したのだって、兄さんにしたら意味わかんないだろうし。
兄さんが悪くないのはわかってるけど………、


「―――――――っだ…。」
「え?悪ぃ、聞こえなかった。」
「兄さんのせいだーーーー!!!」

誰かを責めないとやってけないよもう!
叫び出した俺に、沢田は“ええ!?”と言ってるし、兄さんは目をパチパチしてるし、先生は顔をしかめて呆れている。

「俺でさえじろくんのこと呼び捨てで呼んだことないのに!兄さんが呼んだらじろくん怒るに決まってんじゃんバカ!!」
「え?え?」
「そ、そんな簡単なことなんですか!?メイノさん!?」
「お前アホだろ。」

兄さん、沢田、先生が言う。

「沢田!“簡単なこと”って何!?超重大だから!せっかく…せっかく最近じろくんデレ期が来てたのに!兄さんのせいでふりだしに戻っちゃったじゃん!」
「デ……デレ?」
「…天名がいつデレたんだ。ただのお前の妄想だろ。」

ギャンギャン泣きわめく俺と、オロオロとした兄さん。端から見れば異様な光景だよね。

その状況を打破したのは、沢田の“そんなことより!”という言葉からだった。

………そんなことよりって……沢田も言うようになったね。

「獄寺くんたちを止めなきゃ!」

あ、そういえば獄寺と山本……桃巨会さんのトコ行っちゃったんだっけ。

「安心しろって、桃巨会なんてリボーンが作った架空のヤクザだ。すぐに諦めて戻ってくるだろ。」
「…でも獄寺なら、そのヤクザ見つかんなかったら外国まで捜しにいきそうだよね。」

何たって十代目命!だからね。ああ……でも山本がいるならそれは大丈夫か。

「言い忘れてたが、桃巨会はこの町に実在するヤクザだぞ。」

………………さすがリボ先生。予想外の爆弾おとしましたね。
リボ先生の爆弾発言に、沢田と兄さんが慌て始める。

「何でお前はそう極端なことすんだよっ!」
「そうだぞリボーン!2人に何かあったら………って寝やがったーーー!!!!」

生徒の文句を、リボ先生が聞くわけないよね。
それにしても、先生器用だなぁ。鼻から風船ってどうすればできるんだろ。

先生の鼻提灯をツンツンと突いて遊んでいると、兄さんが俺たちだけで行くか、と言い出した。

「えぇ!?む、無理ですよそんな…!」
「心配すんなって!それに、今度はお前がファミリーを守る番だぜ?
おーいメイノ!お前も行くだろ?」
「………何で俺まで……。」

いいからいいから!と俺と沢田を促す兄さんだけどさ、きっと俺も沢田も同じこと思ってるよ。
“何がいいんだ!”てね。

てかさ、俺と兄さんと沢田って………完璧戦力外3人組じゃないかな?
兄さん今部下の人たちいないから役に立たないだろうし、沢田だって先生に“死ぬ気弾”だっけ?それ撃ってもらわなきゃ弱いままじゃん。
後は俺だし。言わずもがな。

俺らが行くぐらいならあの2人だけの方がいい気がする……というのは沢田も薄々思ってるよね。けれど沢田は友達が自分の為に危険をおかしているのだから、行く決心はついているのだろう。

…でも俺本気で行きたくない。早くじろくんトコ行きたい。

そんなこと思っても、はりきる兄さんには伝わらないよね。
ハア、とため息をつくと、沢田が不安げにこっちを見る。

………そんな目で見なくたって、この状態で沢田と兄さんを2人きりにする程、鬼じゃないよ。








………なんか、複雑な気分だ。

結論から言うと、獄寺も山本も無事だった。
無事だったけど……さ。ヤクザ相手に中学生が無傷ってどうよ。
やっぱ俺ら来る必要なかったじゃん。

と、思ったところで、なんかさらにやばそうな人たちが現れた。
怒ってる……けど当たり前だよね。急に訳もわからず襲撃されたんだから。
でも悪いのは先生なんだよ。俺ら悪くないんだよ。騙されただけなんだよ。

リボ先生に陥れられた同士、仲良くしようよー………なんてね。
ただの現実逃避だけどさ、だって怖いんだ、俺も。じろくんいないし。
あ、じろくんのこと考えたらまた悲しくなってきた。俺絶対今日一日で一生分の涙使い果たすな。

―――――ベシィ!!!

「…痛い………。」

モンモンと考えていたら、顔に物凄い痛みが走った。
……どうやら兄さんの鞭だったらしい。…いい加減自覚しよう、兄さん。あんた部下いなきゃ何もできないってか、かえって足手まといなんだから。何もするなよ。
痛みに思わず膝をついていたが、それをぐいと引き上げられた。

「テメェらコイツが見えてんなら動くんじゃねぇぞ!」
「メイノ!」
「メイノさん!」
「会長!」
「テメー何ボーっとしてやがんだ!」


ごめんなさい。俺の方が足手まといでした。
でも獄寺………暴言吐く前にちょっとは心配してほしいな。

俺がヤクザの一人に捕まったことに対して、兄さんと沢田、山本は心配してくれたけど、獄寺は心配してくれないんだね。
今も沢田たちが必死に止めてくれてるけど、“構うことありません!あいつもろともぶち抜きましょう!”とか言ってる。
構ってよそこは。俺本気で死ぬ。

てか俺をつかんでるヤクザさんが哀れみの目で見てるんだけど。………哀れむなよ、余計つらくなるだろ。
大体人質なんかいなくたって今のところは桃巨会さんの優勢だったのに、この人何で俺を捕まえたんだろう。暇だったのかな。

チラリと見れば、街を牛耳るヤクザの幹部にしては若く見える。俺の首筋に添えられたのはナイフで、多分この人は銃とか殺傷能力の高い物は与えられてないのだろう。
こんなちゃっちいナイフで、この中で一番弱そうな俺に手を出したのは……本当に暇だったのだろう。きっと、「何かしなくては。」という自責の念があったのか。

―――ばっかだなあ。
………でも、そういう人は俺大好きだよ。

思わず口元が緩んでしまう。
だって、可愛らしいじゃない?
誰かの為に奮闘する姿なんて。

「な、何にやけてるんだ……。」
「失敬な。ほほえんでたんだよ。」

ドン引きしたように言われる。
失礼な人だ……。

「てか放してよ、田中さん(仮)。
俺捕まえても良いことないのわかったでしょ?」
「誰が田中だ!?放せと言われて放す馬鹿、いるわけねーだろ!」
「えー、俺は馬鹿とは思わないな。……むしろ今俺を放さない方が馬鹿かもよ?」

俺に手を出してどうなるかわかってる……?

はったりです。意味もなく意味深に笑えば田中さん(仮)は律儀に息をつめてくれる。
わあ、単純。いい反応ありがとう。
素直に俺から少し離れてくれた。なんていい人だ。

「よ、よし!メイノよくやった!後は俺に任せろ!」
「テメーはもう引っ込んでろ跳ね馬………っていてーーーー!!」

兄さんのふるった鞭がまたもや獄寺に当たる。……天罰だ獄寺。俺を見捨てようとした。

「クソッもう一回……!」
「いったーー!?ちょっと最悪!俺に当たったんだけど!」

状況は何も良くなってない。
相変わらず戦闘で役に立つのは獄寺と山本だけ。その獄寺も今は痛みで膝をついている。
…………どうすんだろう。

他人事のように見ていると、銃声と、“復活!!”という沢田の声が聞こえた。

「……………えぇー……。」

そこには、裸になって、拳を大きくして、白目をむき出しにした沢田が…。
体育祭の時と同じだ…あの時はよく見えなかったけど、こんなことになってたのか。

「……こんな沢田嫌だ…。」

ていうか誰だコイツは。

まあ、沢田が豹変してから、状況は好転した。
部下の人たちが現れて、兄さんも役立たずじゃなくなったし。
めでたしめでたし、なんだろうけどさ。

…………沢田……。
なんかトラウマになった。






「うぅ……じろくんじろくんじろくんじろくん………………。」
「だあーーー!!!テメェさっきからウジウジウジウジうっせぇんだよ!!」

折角桃巨会を殲滅したというのに、さっきからメイノさんはあんな調子だ。そりゃもう獄寺くんがキレる程に。……てか朝からあんな感じだよね。
ちなみにここがどこかというと、真昼間の往来だ。つまり人がたくさん通る。その中でメイノさんは体育座り。
イコール、超目立つ。
ただでさえ俺ら制服だから注目されるのに……。

……物凄く恥ずかしいです、やめてくださいメイノさん!

「メイノ……悪かったな……やっぱ俺のせいだよ、な。」

ディーノさんがシュンとしながら謝るけど、メイノさんのあれはただの八つ当たりに近いような気がする。ディーノさん、弟に甘いなあ。だからメイノさんもやつ当たってるんじゃなかろうか。
ディーノさんの言葉にメイノがブンブンと首を横に振る。
…………子供かよ。

「違うのか?じゃあ何かあったのか…?」

…………うん、ディーノさんメイノさんのこと甘やかしすぎだろ。
とかこの状態で考える俺は根性悪いのか。
でも、中学生にもなってこれは………若干引いてしまうのは普通の反応だよな。

「ほら、言ってみろって!俺になんかできるかもしれないだろ?」
「うぅぅ……昨日…兄さんたちと別れた後…じろくんと口論になって……………………………………それですらやばかったのに、最後に“じろくんなんか嫌い”とかバカなこと言ったんだよ俺のバカーーーーーー!!!」

…………………………うわあ…………。

もう本当昨日のシリアスな展開はなんだったんだよ……。悩んでた俺の時間を返してほしい。
今のメイノさんの発言で、獄寺くんも山本も顔を引き攣らせている。きっと俺もだ。
あ、ほら。ディーノさんだってもうどうしたらいいのか分からないって顔だ。


「何だテメェそのふざけた原因!」
「うっさい獄寺!ふざけた言うな!俺は真剣なの!!もう……じろくんもじろくんだよ。いっつもあんなに愛を囁いてるのに…………たった1回の“嫌い”をどうして信じるかな………………………………………………………っじろくんのアホーーーーーー!!!でも大好き!!!」
「やめてくださいメイノさん!恥ずかしいです!」
「俺のじろくんへの愛は羞恥心では拭い去れないんだ!!」
「いや、メイノ…意味がわからないぜ。」
「ははっ!なんかスゲーのな!」



「……だからどうしていつもこんな事になってんだよ………。」

もはや収集のつかない状況で現れた天名さん。………救世主来た!

「沢田……昨日は悪かったな、取り乱しちまって。」
「え!?あ、いやいや!全然平気ですから!」

なんでか天名さんに謝られてしまった。でも、俺よりもディーノさんに言うべきじゃ……と思っていると、ディーノさんが天名俺には!?俺にはなんかないの!?と催促する。
何て言うか……昨日の今日で何事もなかったかのように振る舞えるディーノさんってすごいよね…。さすがメイノさんのお兄さん………。初めは見た目はそれなりだけど、性格は似ないものだな、と思ってた。けど、こういう所――なんかやたら切替早い所――はそっくりだ。
まあ、ディーノさんに対する天名さんの反応は、やはり冷たいもので、ディーノさんの言葉をうぜぇ、黙れ、ヘタレ野郎、の3言ではねかえした。
……さすがです天名さん。
そういえば、天名さんが来たというのに、メイノさんが妙に静かだなぁ…。

「…おいメイ……何やってんだ。出てこい。」
「!やだ!じろくん絶対怒ってるもん!!」
「怒ってねぇだろうが!さっさと出てこい!」
「いーやーだー!!今まさに怒ってんじゃんバカ!」
「会長ー俺の服が伸びちまうのなー。」

メイノさんが果たして何をしていたかというと、山本の背中に隠れてたんだ。
文字通り「背中に」。山本のシャツを引っ張って、その隙間に頭を突っ込んでいた。……なんて異様な光景。
天名さんが引っ張るも、メイノさんは山本にしがみついて出てこない。

通りに人がいなくなったのが唯一の救いだ。……大方、“あっちに変な人たちいるから行かないほうがいいよ”みたいな事になっちゃったんだろうけどさ。

「うわ!やべえ!!
ツナ、俺ちょっとやることあるから悪いな!」

さっきまで天名が冷たい…弟も構ってくれない……と嘆いていたディーノさんが焦ったように言う。
まさかこの状況て帰るんですか、ディーノさん……。
そんな思いを込めてディーノさんを見ると、ディーノさんはニカッと笑い、お前なら大丈夫だ!と根拠のない事を言い出した。
それがマフィアの事なのか、今の状況の事なのかは定かではないが、そんなことはどうでもいい。
だが、これだけは言わせてほしい。


あの人逃げやがった!!!
ずるい……!


ああ、俺、ここまで“学校行きたい”って思ったの初めてかも。
ていうかここから逃げ出せるならもう何でもいい。……でも、山本がメイノさんに捕まってるから。さすがに見捨てる訳には、ね…。
隣の獄寺くんは遠くを見ている。きっと俺も同じ顔をしてるんだろうな……。

メイノさんと天名さんの攻防を眺めていると、ゴツン、と鈍い音がした。

「〜〜っいったぁーー!!!何すんのさじろくんのアホ!暴力反対!」
「お前がいつまでたっても出てこねぇからだろうが!」
「何さ!元はと言えばじろくんが昨日ぶりに会った俺を無視して沢田に1番に話しかけるから…しかも沢田の次に話しかけたのは兄さんだし!」

俺はずっとじろくんを思ってたのに!……ってメイノさん、俺を引き合いに出さないで下さい!しかもディーノさんには話しかけたんじゃなく、一方的に暴言吐いてただけだ。
あれってそんなにうらやましいこと?俺だったら是非遠慮したいけど。
思わず乾いた笑いが溢れる。

「じ…十代目?」
「なに?獄寺くん?」
「…いえ……ただ笑われていたので、どうされたのか、と。」
「ああ、大丈夫。ちょっと悟りを開いただけだから。」

この人たちに普通を求めても無駄だってね。もう天名さんもメイノさんも同類だ。………この考えを知られたら睨まれるけど。

「うわぁぁん!!じろくんの1番は俺だと思ってたのにーー!!謝れじろくんーーー!!!」

ああ、また泣き出した。天名さん本日2発目のげんこつなるか………。

「………、ハア、……悪かったな…。」

………、謝った、よね。いま。
メイノさんの意味不明な主張で天名さんが謝った。
メイノさんもまさか謝られるとは思っていなかったらしく、ポカンと口を開けている。

「…じろくん大丈夫?お熱ある?」
「ぶん殴るぞ。……言っとくが、今の事で謝ったんじゃねぇからな。昨日の事だ。あれは全面的に俺が悪かった。…文句あんのか。」
「…ない!ないよ。ないけど……じゃあなんで無視したのさ…。」
「……昨日は、途中までは俺のが悪いが…最後のはお前が悪い。」
「“大嫌い”?」
「…別に信じてはねぇけどな、ムカつくもんはムカつくんだよ。」

はい、何ですか、コレ。イロイロツッコミたかったけど、あえて何も考えずに見ていた。……そしたら、本気で殺意が芽生えた。

とりあえず、仲直りできてよかったですね、殴らせて下さい。的な。
この場面だけを見ればほほえましいだけですむのかもしれないけど、一部始終を知ってる俺としては殺意しか湧いてこない。

人は、こうして憎しみを知るんだ。うん、俺成長したな。

そんなことをしみじみと思う。

………ああ…もう。

「行こうか。」
「…ですね。」
「そうだな。」

山本も解放されてるし、メイノさんたちは俺たちなんか眼中にないって感じだし。
疲れた、けれど、今日一番の功労者は間違いなく山本だ。
シャツが伸び切ってしまったのを、予備があるから平気なのな、と笑っている山本は神か仏かなんなのか。
……
天然ってすごい。

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