それを恋と呼ぶのだろう
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 クロムウェル家の令嬢として参加した貴族のパーティーは物凄く盛大なものだった。規模も、食事も、ドレスも、人数も、すべてに圧倒される。色々なものに見惚れてしまい、人の波に押されてラッド様の側を離れてしまった。はぐれてしまっては大変だと思った矢先のことだ。

 (どうしよう……)

 こんなところで一人だと心細い。加えて、次から次へと話しかけられるので緊張もする。令嬢としての振る舞いに気をつけながら、あちこちに目を向けても探してる人物は見当たらない。

 話しかけられてはその場から離れることも出来ず、ラッド様を探そうにも身動きが取れない。
 困ったなぁ、と彷徨わせた視線がぴたりと合わさった。たまたま側を通りかかったその人と。

 「ローガン様……!」

 見知った人と会えた嬉しさで思わず名前を呼んで引き留めてしまった。

 「……クロムウェル家のレディ。私に何か用事かね?」
 「私と一緒に兄を探していただけませんか?」

 相変わらずの威圧感に負けそうになるけど、ここでさよならする訳にいかないと勇気を振り絞る。ローガン様は目立つだろうし、側に居ればきっとラッド様が気付くだろう。

 「探して何のメリットがある?」
 「それは、このあと考えますから!」

 ローガン様は私の申し出に目を細めて、それから薄く笑った。

 「良いだろう。……さて、こちらのレディは私がエスコートさせてもらおうか」

 面白がるように了解して、すっと腕を差し出した。私が手を添えたのを確認してから歩きだしたので、つられるように私もその場を離れる。ローガン様は勿論、私の隣にいた男性に有無を言わせない。

 「あの、ありがとうございました」
 「付き添いはどうした?」
 「逸れてしまいまして……」

 だからあんな男に足止めを食らっていたのか、と呆れたような口調で言う。

 「もう少し上手くかわす方法を学んだ方が良いと思うがね」
 「……その通りです。気をつけます」

 当たり前のことを言うローガン様に頷けば、横目で私を見た。私はと言うと、隣に立っているからどうしても見上げる形になる。

 「レディセレナ。君の素直さは嫌いではない」

 深い意味がある訳じゃないし、嫌いじゃないというだけで好きだとは一言も言ってない。それでも心臓がどくんと跳ねた。そこから順番に熱が回って顔も、指も、足の先までもが熱くなる。
 そんな私の様子を知らないのか、知っていながら気付かないフリをしているのか。
 ローガン様の腕に添えてる私の手を彼の反対側の手がゆっくりと剥がす。それを器用に掬い取って、顔を寄せたローガン様が手の甲へ、そっとキスをした。
 
 「ローガン様っ……!」
 
 驚きと恥ずかしさで上擦った声で彼の名前を呼ぶ。唇を離す動作が、まるでスローモーションみたいにはっきりと目に映った。

 「君は本当に私好みの反応をする」
 「からかわないでください……!」
 「からかってなどない。レディに対する挨拶だ」

 何を言ったら良いか分からなくなって、たぶん顔も真っ赤だろう。先程とは比べ物にならないくらい心臓がうるさい。

 「ダンスの経験は?」
 「少しは、ありますけど……」
 「なら良い。レディセレナ、私と踊っていただこうか」

 突然のことに目を瞬かせると、ローガン様はホールの真ん中を示した。

 「交換条件はダンスにしよう。……目立てば、お迎えが来るかもしれんしな」

 確かにそうかもしれない。でもローガン様と踊るとなると心の準備が必要になる。そう内心で慌てる私にローガン様は追い討ちをかけた。

 「君に拒否権はない」

 口調こそ一方的なのに、握る手は優しい。それが拍車をかけてますます断れなくなった。わかりました、と手を握り返せばローガン様は満足そうに「素直で良い」と同じことを言った。

 「そしてもう一つ」
 「なんですか?」
 「三日後は私の誕生日だ」
 「え? もうすぐですね!」

 ダンスをするためホールの中心へ向かいながら、ローガン様が続ける。

 「当日、祝いの言葉を貰いたい」

 異論は認めない様なはっきりとした声が頭の中で繰り返される。私に? 当日? ローガン様の誕生日のお祝いを私がする。それってつまり。

 (……会いに行っても良い、ってことですか?)
 
 恥ずかしさと嬉しさが混じり合ってふわふわする。

 「わかりました。私で良ければ……」
 「私は君が良い」
 
 その台詞が私にとどめを刺した。もうだめだ、私はこの人が好きなのだ。自覚してしまった恋心がゆるゆると思考を蝕んでいく。

 ラッド様たちと会うのはもう少し後でも良いかな、なんて思ってしまったのはきっとローガン様のせいだ。



fin*1/17





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