透き通るは純情
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 立て込んでた仕事が一段落着いたので、久しぶりにブルーベルへ顔を出した。ウエイトレス姿で働くセレナを見ながらゆっくりしていたけど、客数が疎らになったこともあってアレクが予定時間より早くセレナを上がらせてくれた。でもそれまでに何度、連れ出したい衝動に駆らたか。

 「……あのさ、やっぱり俺の家に来て欲しい」
 「え? でも今日は帰るって伝えてあるし……」
 「ラッド様とハルには俺が怒られとくから。ね?」

 ブルーベルからの帰り道。セレナを送って行く途中だったけれど、やっぱり帰したくなくて繋いでた手にぎゅっと力を込めた。ようやく会えたのに、もうさよならなんて早過ぎる。

 「……あのね、私も、もう少しリュカと一緒に居たいなぁって思ってたの」

 恥ずかしそうにセレナがそう言って、繋ぐ手を握り返してくれた。









 家に着いても繋いだままの状態を不思議がるセレナの手を引いて、寝室に連れ込んだ。「眠いの?」なんて的外れのことを言うセレナに「そうじゃないよ」とだけ答え、ゆっくりと手を離してベッドに腰掛ける。

 「セレナ、おいで」

 なんの迷いもなく隣に座ろうとしたセレナを制して、自分の膝をぽんぽんと叩く。

 「そっちじゃなくて、こっち」

 ようやく意味を理解したセレナがふんわりと頬を赤くして、困ったように眉を下げた。

 「乗らなきゃダメ?」
 「だめ。眠るためじゃなくて、セレナに触れるためにここへ来たんだから」

 うー、と小さく唸ったセレナが、観念したようにおずおずと片膝ずつベッドに乗せた。俺に跨るような体勢が恥ずかしいのか、なかなかこっちを見てくれない。

 「セレナはさっき、もう少し俺と一緒に居たいって言ってくれたけど……」

 体重をかけたがらないセレナを、自分の方へと引き寄せる。ここまできては逃げられないと思ったのか、大人しく座ったセレナに軽く、触れるだけのキスをした。

 「俺はずっと一緒に居たいよ。……とりあえず今夜は、帰さないから」

 セレナが足りてないし、と我ながら恥ずかしいことを言ってる自覚はあるけど、事実なんだから仕方がない。

 「……リュカ、真っ赤だよ」
 「うん、セレナとお揃いだね」

 目元まで赤いセレナをじっと見つめてると、セレナが小さく首を傾げた。

 「何かあった?」
 「……どうして?」
 「なんとなくそんな気がしただけ。間違ってたらごめんね」

 そんなところは勘が良いセレナに隠し通せないと、今度は俺が観念する番だった。

 「……俺が仕事でセレナに会えなかった間も、アレクやお客さんはセレナに会ってたんだなぁって思うと、ちょっと妬けた」

 まばたきを数回。セレナが「妬けた……」と俺の言葉を反復してから俺を見た。

 「……ちょっとじゃないな、だいぶ妬いた」

 俺がブルーベルに居たって、いろんな人に声をかけられたり、アレクとは楽しげに話したりで気が気じゃなかった。深い意味が無いことは分かってるし、名前も知らない相手に嫉妬するのもどうかとは思う。アレクに至ってはただの同僚で、仕事の話をしていただけかもしれない。
 
 「嫉妬深くてごめん」

 思い返すと自分が情けなくなってきて、セレナの肩に顔を埋めた。側に居たいし、触れてたいけど、こんな俺は見られたくない。最低な我が儘を押し殺そうと深呼吸した。

 「……そんなの、私だって同じなんだから」

 腕の中に閉じ込めてたセレナがぽつりと呟く声に、思わず顔を上げた。相変わらず赤いままのセレナと視線がぶつかる。

 「会えない間、リュカのことばっかり考えてたよ。今何してるんだろうとか、……誰と居るんだろう、とか」

 「だから同じなの」と、震わせたセレナの声が耳に響く。

 「……セレナ、あんまりそんな可愛いこと言わないで」
 「リュカだって同じこと言ってたじゃない……!」
 「俺が言うのとセレナが言うのじゃ訳が違うんだってば」
 「違わないよ」

 納得いかないでいるセレナの鼻先を唇で柔く噛んで離すと、面白いぐらいに狼狽えた。

 「何でそんなとこ……」
 「目に入ったからかな。別のところが良かった?」
 「……どこでも良いよ。リュカがしたい、なら」

 何それズルい。そんなこと言われると目に入る箇所全部にキスしたくなる。

 (ちょっと見ない間にまた可愛くなってるし……)

 結局のところ、どう足掻いたってセレナには敵わないのだ。
 愛おしさが膨れ上がってセレナの唇にもう一度自分のそれを触れ合わせる。啄むみたいに何度も何度もそうしてから、角度を変えて深く長く、交わらせた。
 酸素を求めて薄く開いたその中に、舌を滑り込ませてを繰り返す。唇を離した時にはもう、とろんとしたセレナが出来上がってた。

 「……嫉妬する程好きでいてくれて、ありがとう」
 「え?」
 「だって、そういうことでしょ?」

 珍しくセレナから、ちゅっと小さく音をたててキスしてくれたと思ったら、そう言ってふにゃりと、本当に幸せそうに笑ったのだ。





fin*





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