甘い筈の想像は何故だか胸を締め付ける  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ あぁ、ほらまた。リュカってば女の子に囲まれてる。優しいから無下に出来ないんだってことも知ってるし、私を一番好きで居てくれてることも分かってる。 (ちょっと側を離れただけなのに……) リュカと二人で彼のアパートに向かう途中、何か飲み物でも買って帰ろうとお店に寄った。 混んでるみたいで、ここで待っててというリュカの言葉に素直に従った結果これだ。 リュカと恋人になれても、友達の時から感じてたことが消えない。 「セレナ、おまたせ」 ぼーっとしてたみたいで、目の前に差し出されたカップを受け取ると、リュカが心配そうに覗き込んできた。 「疲れちゃった?」 「大丈夫だよ」 それでもやっぱり気になるみたいでリュカは納得してくれない。 「本当に? 辛くなったら言ってね」 「うん。ありがとう」 そうやって心配してくれるのが嬉しいなんて言ったら、どう思われるんだろう。 リュカの空いている方の手を引いて歩き出すと、ほんの少しだけびっくりしたみたいに、まばたきをした。それからちょっとだけ頬を赤くして「恋人同士ならこうやって繋ぐんだよ」って言いながら、するりと指を絡めてくれた。 「……リュカ、真っ赤」 「そういうのは気付かないフリしてくれると嬉しいんどけどなぁ……」 「どうして?」 「だって……、カッコ悪いじゃん」 「そう? リュカはどんなことしててもかっこいいよ。たまに可愛いけど」 自分でも、とんでもなく恥ずかしいことを言ってると気付いたけれど、出かけた言葉は止まることなく口から流れていった。 恥ずかしくなって顔が熱いと感じた頃には、リュカが何か言いたそうに口を開いては閉じてを繰り返してた。 「……ここが外ですっごく残念。部屋に帰ったら、覚悟しといて」 ようやく話してくれた内容の意味を聞き返す暇なく、リュカに手を引かれて歩き始める。 耳まで赤いリュカが可愛くて(可愛いって言うと怒られるけど)口元が緩んでしまう。愛してもらえてるのがこんなに嬉しいなんて。 ▼ 「……セレナは俺のこと誤解してるよ」 アパートに近付くにつれ足早になったリュカは、部屋に入ったと同時に私を後ろから抱きしめた。 ご丁寧に、持ってたカップも私の分までサイドテーブルの上にきちんと置かれてる。 「誤解?」 「うん。俺だって男だよ? あんなこと言われたら我慢だってきかなくなるんだから」 リュカが首筋に顔を埋めて喋るから、息が当たって擽ったい。そのままゆっくりと首筋を伝って耳の下辺りまでキスされて、耳朶にやんわりと歯をたてられる。思わず息を漏らせば、ゆるゆると撫で回すようにくびれをなぞられた。 「んっ……、リュカが、他の子に目移りして、も、私は、リュカしか……」 その瞬間、ぴくりとリュカが動きを止めた。唇も、指も、全部。 「……どういうこと?」 明らかに怒っているのが手に取るように分かる。声に怒気を孕んだままリュカがもう一度聞いてきた。 「セレナ、俺が他の子に目移りしてると思ってるの?」 「……今はしてなくても、リュカの周りにたくさん女の子が集まるし……」 いつか、隣を歩くのは私じゃなくなるのかなって。 (違う。ほんとは、それだけじゃない) 「……リュカが他の女の子と一緒に居るの、嫌だなって、思っただけ」 恋人同士になれば独り占め出来るって勘違いしてた。リュカはみんなに優しくて、何も私だけのリュカじゃなかった。 自分の嫌なところが露わになって、リュカから離れたくなる。こんな私じゃ釣り合わない。 「……セレナは分かってないみたいだけど」 逃げようとする私を、リュカが離してくれない。 それどころか、怒ってた筈の彼が優しく語りかける。それはもう、自分で言うのも恥ずかしいぐらいの柔らかくて慈しむ様な声。 「手を繋いだり、キスしたいなって思うのも……、こうやって我慢できなくなるのも」 そう言ってリュカがまた、跡を付けるかのようにキツく首筋を吸う。 「覚えといて。セレナだけだから」 特別なんだっていうのを、言葉や行動で示してくれるのが嬉しくて泣きそうになった。ひとつひとつが私の胸が締め付けていく。 「……もうずーっと前から、俺はセレナしか見えてないよ」 背中越しに伝わる温もりが幸せで、堪らなくなる。こんなにも愛されてる。 「リュカ」 「あ! 今こっち向かないで」 首を傾けて後ろを見ようとすると、リュカに制止をくらった。 「なんで?」 リュカの顔、見たいのに。ぽつりと漏らせば、リュカは私の肩に頭を乗せて顔を隠した。 「ほんと、どこでそういうセリフ覚えてくるの」 「そういうセリフ……?」 「あー、うん。何でもないよ。とにかく、今は俺のこと見ないで。……嬉し過ぎて情けない顔、してるから」 きっと真っ赤になっているだろうリュカを想像したけど、そう言う私も真っ赤だろうからおあいこだ。 リュカの全部が好きで、どうしようもなくて、やっぱり胸がきゅん、と締め付けられる感覚に陥った。 fin* |