片思いがこんなに辛いなんて
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 「ラッド様……?」とセレナが不安げに俺を呼んだ。

 「あぁ、ごめん。見惚れてた。似合ってるよ」
 「ありがとうございます……」

 招待されたパーティーに向かう時間。彼女の部屋まで呼びに行けば、すっかり準備の出来ているセレナが待っていた。俺の選んだドレスを着て、似合っていると言えば恥ずかしそうにお礼を言う。可愛くて自慢の妹がそこにいる。

 身に付けている小物もすべて、俺が揃えたもの。妙な優越感に浸ってしまう自分が情けなくて嫌になった。だって俺は、彼女の兄でしかない。

 「……本当に似合ってる」

 そう言いながら流れてる髪の一房を掬う。セレナが可哀想なくらい頬を赤くして俺を見た。この子が俺を意識してるだろうことは何となく分かる。じゃなきゃこんな風に俺を見ないだろうし。

 分かってても、隔たりがあるのだ。

 「可愛い妹が他の男に言い寄られるのを見に行くのは乗り気しないが、エスコートするのは楽しみだな」
 「言い寄られたりなんてしませんよ。ずっと隣にラッド様が立ってますし……」
 「セレナにはまだ俺だけのレディでいて欲しいよ。男に言い寄られるのはもっと後で良い」

 手に取った毛先にキスをした。神経の通ってない髪に感覚は無いけれど、まるで直に触れられたみたいにセレナが肩をびくっと強張らせた。

 「真っ赤じゃないか」
 「……ラッド様のせいですよ」
 「そうだったな」

 律儀に返すセレナが面白くて、自ずと笑ってしまった。ついでにそれは、俺のせいで赤くなってる自覚があるってことだろ?

 「お兄様は意地悪です」

 レディ仕様のセレナが膨れたように呟いた。それを可愛いと思うのはきっと、妹だからという理由だけじゃない。お兄様と呼んだセレナが目を伏せた理由もきっと、恥ずかしいからなんて理由だけじゃない。

 「お手をどうぞ、レディ?」

 恭しく差し出した腕にセレナが手添えた。可愛いセレナを独り占めできる時間はもうおしまい。人目に触れさせなければいけない時間だ。

 「この先もずーっと俺のレディで居てくれたら良いんだがなぁ……」
 「……この先もずーっと、ラッド様のレディで居させて下さいね」

 真似した台詞をセレナが言う。お兄様ではなくて名前を呼んだその意味を勘繰ってしまう。これからパーティーに向かうっていうのに、俺もセレナも真っ赤じゃないか。

 「セレナが良いなら、勿論」

 好きだと伝える代わりに「そのドレス、本当に似合ってる」と。嬉しそうに弧を描いた唇から目が離せない。

 「ラッド様もお似合いです」
 「そうか? ありがとう」
 「今度のパーティーは、ラッド様とお揃いが良いです。……あっ! 仲の良い兄妹と思われるようにですよ!」
 「……あぁ、そうだな。ペアも良いかもしれない」

 焦るセレナに賛同すると、可愛いレディが瞬く間に笑顔をみせた。

 ほんと、片思いなんて早く終わらせてしまおうか。





fin*





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