諦めようなんて決意は逆効果
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※pearlエンド後


 ふと目が覚めた。カーテンの隙間から見える窓の向こうは暗く、まだ夜中の様である。隣を見ればシーツにくるまるセレナがいる。顔にかかっている髪をゆっくりと払い除けると、セレナが小さく身じろぎをした。

 「ユアン……?」
 「ごめん、起こした?」
 「大丈夫……」

 大丈夫とは言ったものの、やはり眠いのか瞼が重そうだ。セレナがもぞもぞと動いて俺の方へと寄ってきた。
 その姿に顔が綻ぶ。手の甲でセレナの頬に触れれば、ほんの少し睫毛を震わせた。

 「眠い?」
 「少しだけ」

 そう言いながらセレナが俺の手に頬を擦り寄せる。そんな甘えるような仕草に、幸せな気持ちになった。

 (可愛い……)

 こんな時間を過ごせるだけでも貴族をやめた価値がある。誰にも気兼ねすることなく、セレナに触れていられるのだから。
 ユアン、と俺の名前を呟いたセレナに顔を寄せ、短いキスをした。

 「目、覚めちゃったの?」

 セレナがとろんとした目で俺に尋ねる。その表情が堪らなくて、おまけとばかりにもう一度触れるだけのキスをしてみた。

 「……セレナと離れてた頃のことを夢に見た」

 唇を離して正直に伝えると、セレナがぴくりと身体を強張らせたのが分かった。
 あの時はセレナにも辛い思いをさせたし、今だって罪悪感がないわけじゃない。
 それでも、これは伝えなきゃいけないという衝動に駆られた。

 「大丈夫。俺はもう、セレナと離れないから」
 「……うん」
 「セレナに聞いてほしい。俺が何を思ったのか」

 静かに語りかければ、セレナの目が不安そうに揺れる。大丈夫と繰り返して抱き寄せた。

 「もう会わないと決めてから、セレナのことばかり考えてた。考えないようにしても無駄だった」
 「無駄……?」
 「うん、無駄だった。何をしてても頭から離れない。今何してるんだろうとか、何を思ってるんだろうとか……」

 すっぽりと包み込むように抱きしめてるせいで顔は見えないが、セレナは何も話さず黙って聞いているだけだった。

 「気付いたらセレナのことばかり考えてた」

 自分の言葉がやけに響く。雑音が聞こえない真夜中の部屋で、セレナと二人きり。聞こえるのは自分の声とセレナの息遣いだけ。

 「二度と会えないのを覚悟した。……セレナを諦めようと思う度に、会いたくなった」
 「ユアン」

 会いたくて堪らなかった。どうして自分から手放したんだろうとずっと考えてた。

 「……こんなにも、愛してるのに」

 今こうしてセレナの側に居られる嬉しさと、あの時悲しませた事実が混ざり合って渦巻く。

 「諦めようとすればする程、セレナを好きだと自覚した」
 「ユアン!」
 「……セレナ?」

 抱きしめてたセレナが動いて、顔を見合わせる様な距離をとった。完全に離れてる訳ではないのに、ほんの少しの距離も埋めたくなる。

 (セレナと居て俺は我儘になった)

 「ユアン、ねぇ聞いて。私も同じなの。もう会えないって知って、なんとかしなきゃって……。私がもう会えないってユアンに伝えた時、ユアンは諦めないでいてくれたから……」

 セレナはどんどん語尾が小さくして、目の淵に涙を溜めている。

 「セレナ、泣かないで?」
 「ユアンがこんな話するから……!」
 「うん、ごめん」

 泣きそうなのを誤魔化すように、今度はセレナから抱きついてきた。

 「これから先、ずっと一緒に居てくれたら許してあげる」

 表情までは見えないが、髪の間から覗く耳が赤い。

 (貴女はいったい、どこまで俺を好きにさせたら気が済むのだろう……)

 「そんな贅沢な条件で良いの?」
 「贅沢、なの?」
 「貴女の側に居るなんて、俺にとっては最高の贅沢」

 なにそれ、と恥ずかしそうに笑うセレナの背中を撫でて、頭のてっぺんにキスをした。

 「な、なんでそんなとこに……!」
 「だって顔を見せてくれないから」

 そこまで言うとセレナはおずおずと俺を見た。そんな仕草、キスして欲しいと言っている様なものなのに。

 「キスして良い?」
 「……そんなこと聞かないで」
 「わかった。なら目、閉じて」

 セレナが素直に目を瞑る。

 (……側に居させてくれて、ありがとう)

 唇へと引き寄せられるがまま、セレナに何度もキスをした。



fin*






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