どうして他の人では駄目なのだろう
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(※本編、イベント配信前執筆)


 「またいらっしゃったんですか?」

 人の良さそうな笑みを浮かべて、教会を訪れた私を出迎えてくれたのはクリス牧師だ。

 「クリスさん、お茶でもどうですか?」
 「今のところは間に合ってるので、お気持ちだけ頂いておきます」
 「そんなに遠慮しないでください。お茶菓子も持ってきたんです」
 「いえ、遠慮などしておりませんよ」

 私もクリスさんも、にこにこと笑ってはいるが、どちらも意見を譲ろうとはしない。
 「手軽に食べれるもの作ってきました。今日の紅茶に合うし、自信作です!」と小さなカップケーキを見せれば、とうとう根負けしたようにクリスさんが大きくため息を吐いた。

 「帰れと言ってるだろうが」
 「言ってませんよ」
 「雰囲気を察するぐらいしろ」
 
 文句を言うものの、追い出す素振りはない。ここに居ても良いということだと勝手に解釈して、教会の椅子に腰かけた。ムッとしたようにクリスさんは眉を寄せたがそんなのは知らんぷりだ。

 「帰れ」
 「分かりました。クリスさんとお茶したら帰りますね」

 どうぞ、と持っていたカップケーキを差し出して、未だに乗り気じゃないクリスさんに無理やり受け取らせる。しぶしぶ、心底嫌そうな顔をした後、諦めた様に私の隣へ腰かけた。

 クリスさんとカップケーキなんてなかなか無い組み合わせだと思うと、何だか可笑しくて笑えてくる。

 「レディセレナ、前々から頭が緩いと思ってはいたが、とうとうネジが外れたようだな」
 「いえ、外れてはいませんよ。大丈夫です」
 「唐突に笑い始めるとは完全におかしくなった証拠だろう。俺の手には負えん。さっさと帰るか医者に診てもらうかしろ」
 「……クリスさんはそういう台詞を言う時、すっごく生き生きしますね」

 ツンとした態度は相変わらずなのに(それもかなり酷いこと言われてるのに)こうしてお話しできることが嬉しい。外面感満載な牧師様じゃなくて、口の悪いクリスさんと、ってところが特に。

 「……お前は俺が何を言おうと、へらへら笑ってるな」
 「へらへらって……。でも、そうかもしれないですね」

 クリスさんは「変わった女だ」と呟いて、渡したカップケーキを一口頬張った。もぐもぐと口を動かしてるのが可愛いなんて言ったら怒られそうだし、黙っておこう。他の人が知らない一面が見れて、それもまた嬉しくて、やっぱり此処に通うのは止められそうにない。

 「美味しいですか?」

 テイクアウトの紅茶を渡しながら尋ねれば、ピタリと動きを止めた。

 「……まずくはない」
 「と、いうことは……」

 チッと舌打ちしたクリスさんがたっぷりと間を空ける。せっかく作ったからにはその言葉が聞きたいのだ。

 「……腹に詰めれば味なんてどれも一緒だが、これは、まぁ、うまい」

 何とも歯切れの悪い褒め言葉に頬がゆるゆるとして、口元がだらしなくにやけてしまいそうになる。

 「また作ってきても良いですか?」
 「駄目だと言ってもそうするんだろ」
 「流石クリスさん。その通りです!」

 何だかんだ言いながら相手してくれるクリスさんのことをもっとよく知りたい。なんて言ったら、きっと嫌そうな顔をして拒否するのは目に見えてる。無条件に褒めてくれて、分かりやすく愛してくれる人ではないこともよーく分かってる。それでも、だ。

 「……勝手にしろ」

 完全に突き放すことぐらい訳ないだろうに、私が近付く余地を与えてくれる。だからやっぱり、他でもないクリスさんと仲良くなりたい。

 「はい、勝手にします!」

 うるさいくらいに返事をした私を、クリスさんがフン、と鼻を鳴らして笑った。ほんの一瞬だけだったけど、それがいつもより優しげだったのは気のせいじゃないと思う。




fin*





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