刑部さんとデート! 「何故……我をここへ連れてきた」
語尾を上げられたので、たぶんそれは疑問なのでしょう。
私は言葉の意味がわからず、刑部さんを見上げました。
今日の刑部さんは、長い黒髪を一本に纏めて、首の後ろで結われています。 服装は、黒のゴシック調のスーツっぽい格好で、まるで映画の中の人みたい。
そんな観察をしていたのがバレたのか、鋭く睨むような視線の光が一層強くなる。
「やれ、夢子よ。ぬしは聞いておるのか」
『は、はい!聞いていますよっ?!』
冷たい声色にびくりと背筋が伸びた。
た、たぶん
いいえ、間違いなく、刑部さんが怒ってらっしゃいます。
「ならば、問いに答えぬか」
『……え、えっと、この植物園には、その、珍しい蝶々を集めた温室がありまして』
びくびくしながら答えると、刑部さんは明らかに呆れたようなため息を吐き出された。
「……こんな温かく光に溢れた場所に連れ出すから、嫌味かと思うたわ」
『そ、そんな』
私が必死に頭を振ると、刑部さんはクツクツと喉を鳴らして笑われる。
「ヒヒッ……、夢子よ。そんな泣きそうな顔をするな。我に襲われたいなら、続けても構わぬが……、ほら行くぞ」
意地悪な言葉を紡がれて、不意に優しく微笑まれ、手をさしのべられた。
……あぁ。
逆光で私の赤い顔が見えなくなればいいのに……。
キュッと胸元を握りしめて、泣くのを必死に堪えました。
「帰ったぞ。歩き疲れたわ。夢子、足を揉んでくれ」
『え?!は、はい!』
「ちょっ?!お嬢、そいつの言うこと聞かなくていいですから!寧ろあんたがお嬢を癒せ!」
「……ヒヒッ、いいのか?やれ、夢子よ。菊一の許可が出た。……我の妙技で存分にぬしを癒してやろう」
「待てこら、ふざけんなっ!」
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