幸村さんとデート! ――茜空。
その景色に見惚れていたら、幸村さんの顔がすぐそばにあった。
『ふふ、ここが遊園地です!』
「ゆ、ゆーえんち、でござるか?」
目をくりくりさせながら、キョロキョロと落ち着かない幸村さんについ笑みが零れてしまう。
なんだか、可愛らしいのです!
『では、行きましょうっ!』
「ゆ、夢子殿っ……!」
幸村さんの手を握って走り出した。
幸村さんは驚かれたのか、少しだけ頬を赤らめられている。
その戸惑ったような表情がやっぱり可愛らしくて、まるで小さい子を連れ回しているような気分になりました。
い、いえ、幸村さんはすごく足も長いし、カッコいい男性ではありますが……。
『……次はどれにしましょうか?』
「……っ、ゆ、夢子殿、き、休憩を……!」
『わっ、幸村さん、ごめんなさいっ!!』
いつも少年のように元気な幸村さんを考えた時に思いついたのは、遊園地で。
私も身体のこととかあったので、遊園地に来るのはすごく久しぶりで。
だからか、幸村さん以上に楽しんでしまったようです。
『幸村さん、オレンジジュースですっ』
「忝ない……」
青色のベンチに腰掛け、二人並んで缶ジュース。
私が調子にのって、絶叫系ばかりを乗り回したせいか……幸村さんの顔色は若干、いいえ、すごく悪い。
『本当にごめんなさい……』
幸村さんに楽しんでいただかなければいけないのに……。
私だけが楽しむなんて、本当に私ってバカです。
「……い、否、夢子殿が楽しんでおられるのならば、某……俺は、別に」
そうやって優しく微笑んで下さった幸村さんに涙が出そうになった。
あぁ、皆さんの優しさに甘え過ぎですね、私。
『あ、あの、幸村さん、次に乗りたいものは、幸村さんが決めて下さいねっ』
苦手で避けたお化け屋敷でしょうが、もうこの際受けて立ちますよっ!
私が真剣な顔で幸村さんを見つめながら言ったせいか、幸村さんは少し目を細められる。
「……なら」
そうして指さされたのは、大観覧車でした。
『……うわぁ、綺麗』
だんだんと高くなる景色に、私はそう声を漏らす。
『ね、幸村さん、空がグラデーションを……』
一生懸命に私が声を出すのは、幸村さんと狭い空間に二人っきりというシチュエーションのせいで。
「……あぁ、綺麗、だな」
それから、何故か外の景色を眺めずに、先程から静かに私を見つめていらっしゃる幸村さんのせいです。
いつもの幸村さんなら、きっと大騒ぎをされるはずなのに。
今は、ただ真っ直ぐに。
対面の座席に座っている私を、その茜空の光を受けた瞳で見つめている。
『……あ、あの?』
落ち着かなくて、そわそわと左右の手の指を絡めた。
茜空を眺め、あぁ、ここが一番頂上。
そんなことをぼんやりと考えて、再び幸村さんに視線を戻す。
と、同時に、世界が私側に傾いた。
「……夢子殿、大好きだ。忘れないで欲しい」
『んんっ!』
間近に迫っていた幸村さんの真剣な顔。
重ねられた唇から、熱い息が漏れる。
……どうしましょう。
私たちの乗っている観覧車が地面につくまで、まだまだ時間がかかりそうです……。
『菊ちゃん、私、もうだめです。堪えれません……うぅ、男の人、狡い、ですぅ』
「お、お嬢?!ちょ、真田幸村っ、あんた、お嬢に何かした?!」
「否、特には何も?それよりも菊一殿にお土産でございまする」
「……あ、ありがとう。え、あれ?」
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