小十郎さんとデート!

「……足湯巡り、とは。渋いところをついたな」

『あ、あはは。なんでしょう……、小十郎さんをまったり癒やそう企画!なんです、なんて』

私がそう言って笑うと、小十郎さんも微かに眉間のシワを緩めて、目を細めて下さった。



温泉巡りでは、男女別になってしまいますし、たとえ混浴であっても、破廉恥ですから、ダメです。

という理由で、足湯巡りならと思いつきました。

のんびりと足首あたりまでを温泉につけて。

特に会話することもなく、まったりとした時間が流れる。

沈黙が続けば、それは苦痛になる人もいらっしゃいますが、私も小十郎さんも、静かな時を楽しんでいました。





「……いいねぇ。恋人同士で足湯巡りかい?」

三カ所目の湯所で、たまたまご一緒になった老夫婦の奥さんにそう話しかけられました。

「……あ、あぁ」

『……っ』

返答に困っていると、私よりも早くに小十郎さんが首を縦に振られて。

私が驚いて小十郎さんを見上げていたら、お婆さんがクスクスと笑い声を漏らされます。

「いやぁ、初々しいねぇ。あなた、顔に似合わず奥手でしょう。ふふ、しっかり捕まえておかないと、こんな可愛い彼女、誰かに盗まれちゃうよ?」

『え、そんな』

私には、小十郎さんの方が勿体ないです!い、いえ、寧ろ、恋人とかでは……

「……あぁ、わかっている」

小十郎さんの低い音色がそう口にされたと同時に、私は小十郎さんに肩を回されて……逞しい小十郎さんの身体へと、抱き寄せられていました。

「あらあら!」

「……こら、お前。あまり若い人たちをからかうな」

お爺さんがお婆さんの手を引いて、そのまま立ち上がられた。

そして、コロコロと笑う奥さんと並んで湯所を後にされる。



『……え、えぇっと』

お二人が去られても、私を抱き寄せたままの小十郎さんに首を傾げた。

そろそろ、離してはもらえないのでしょうか?

嫌とかではなくて、すごく恥ずかしいのです。

密着していて、とてもドキドキしますし……


「……年取っても、ああやって仲の良い夫婦でいられる相手っつーのは、いいもんだな」

『……ぁ、そう、ですね』

どこか切なそうな小十郎さんの瞳が、ただ宙を見ていて。

私は何も言うことができませんでした。



ただ

ただ、小十郎さんの心臓の音が、まるで私の心臓と同じように、その鼓動を早めているような気がして……


きゅっと噤んだ唇。


……あぁ、もう逆上せてしまいそうです。








「お、お嬢ー?!ちょ、片倉、何?どうした?!」

「い、否、すまねぇ。長湯し過ぎたみてぇだ」

「あ、足湯巡りで、長湯って、どんだけだよっ?!」


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