幸村精市が

「……へぇ。俺がデッサンモデルに、ね。ふふ、罰ゲームって感じがしないけど」

「体調のこともあると思うので、ポーズは楽なものでいいですから」

夢野さんの台詞に微笑んでから、彼女の頭を撫でた。後ろで赤也が「うっ」とか口に出してたけど、気にせずベンチに腰かける。

「……どうしようかな」

ポーズ……ポーズ……なんて考えながら、顎に手を当てて考え込んでいたら「それでいいんじゃないか」と蓮二から声をかけられたので、じゃあこれでと微笑んだ。

夢野さんが一生懸命に俺をスケッチブックに描いている姿を見て、ちょっとだけ嬉しくなる。
何故か赤也と柳生と真田まで描き始めたけど、この三人のことは気にしないことにした。

「んーっ……」

鉛筆を唇にあてながら、片目を閉じてこちらを見る夢野さんが可愛い。
彼女の新しい一面を発見できるんだから、こんな罰ゲームがあってもいいな、なんて考える。

「……本当にそれは精市なのか?」

「柳さんがなんで疑問を持たれているのか全くもってわからないんですけど、完璧に幸村さんですね!」

暫くしてそんな蓮二と夢野さんの会話が聞こえてきて、俺から視線を外してムスッと唇を尖らせて蓮二と仲良さげに話している様子に少し嫉妬した。
情けないけど、本当に彼女のことになると余裕がなくなってしまうな。俺は……。

小さく溜息を零していたら、ジャッカルが「おお、柳生、超うまいな!」なんて柳生の絵を褒めている声が聞こえる。

「ホントじゃ。流石柳生、優勝ナリ」
「こりゃー完璧だろぃ!」
「ありがとうございます、お恥ずかしながら紳士として見事に描ききれたと思いますよ」

仁王と丸井にも褒められて、柳生が得意満面で笑ってメガネを押し上げていた。



それから時は少しだけ動いて。
夢野さんが明るい声で「できましたーっ!!」って言ったのを合図に、この罰ゲームは終わりを告げる。

「幸村くん、いかがでしょう?」
「ふふ、柳生、ありがとう。すごいね。こんなに細かく描けるものなんだね」

柳生の絵は本当にデッサンのお手本のような丁寧でいて実物に近いリアルなものだった。お礼を口にして微笑む。

「……幸村ぶっちょー!」
「赤也、この絵の中の俺の後ろにある禍々しい空気は何?」
「え、見たまんま書いたんっスけど……」
「へぇ……」
「ごめんなさい!」

「幸村、俺のは──」
「なんで浮世絵ちっくなの。俺こんなにのっぺりしてるかな」
「──いやこれはこういう画風であって」

とりあえず赤也と真田を適当にあしらってから、夢野さんへと顔を向けた。

「あ、あのー……」
「う、うん」
「……絵が上手いわけではないんですけど。頑張って一生懸命描いたので!!」
「あ……ありがとうっ」

夢野さんから受け取ったデッサンを見て一瞬固まってしまったけど、恐る恐る俺の様子を伺っている夢野さんが可愛かったので、目を細めて微笑んだ。

味のある絵だし、彼女が描いてくれたのだと考えたら、それだけで家宝に出来るかもしれない。



「……精市、本気でそれを思っているのか」

ポツリと呟かれた蓮二の台詞に「あぁ」とはっきりと答えたのだった。

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