海で遊ぼう・比嘉編
「お。ふらーさぁ」
「だから何回も悪口よくないと思うんです」
「ははっ」
目を細めて悪戯っぽく笑う平古場さんは絶対に反省していないし、またきっと私をふらーって呼ぶんだろう。
半ば諦めつつ、平古場さんの後ろを眺めた。
木手さんがストップウォッチを手にしながら、岩に座っていてその前に皆さんが沈んでいる。いや潜っている、だった。
「ぷはぁ!!」
甲斐さん、浩一くん、田仁志さんが海面に顔を出す。荒らげた息を整えながら、まだ潜っている二人を見てから木手さんを恐る恐る見上げていた。
「まー……不知火の勝ちやし」
平古場さんが私の肩に手を置いて笑う。
そういえば、不知火さんの特技は息を止めることらしい。死人の振りできるなんてすごいな。
「あー!!」
「平古場先輩っ」
甲斐さんと浩一くんが平古場さんに指を指したと同時に知念さんが浮いてこられた。
頭にワカメを乗っけて「……負けたさぁ」と不知火さんらしき頭に向かって呟く。
それから、酷く吃った甲斐さんに水着を褒められて、そのぐらいに優勝者の不知火さんが海面に顔を出していた。
皆さんにバーベキューやるんですってと伝えたら、田仁志さんが嬉しそうに大声で「よっしゃー!!」なんて叫んで。
私は知念さんと不知火さんにタオルを手渡してから、不機嫌そうな木手さんを見る。
「……バーベキュー嫌なんですか?」
「嫌だなんて言ってないでしょう」
「じゃあどうしてそんな顔を」
「俺がどういう顔してるって言うんですか」
あれ?私じゃなく俺っていった?なんて首を傾げたら、木手さんは何かに気づいたのか赤い顔で私の額を叩いた。
「顔が煩いですよ」
「顔が?!」
そんなこと言われたの初めてですよ!とムッとして頬を膨らませながら、木手さんから視線を外す。
「…………いつまで貴女の間抜けな顔を見ていられるのか……少しは考えてしまいますね」
それからポツリと呟かれたセリフにまた首を傾げて。
「いくやっしー」
手を差し伸べてくださった平古場さんと甲斐さんの手を取る。
二人とも海に長いこと浸かっていたからか、とても冷たくて気持ちよかった。
「…………本物の沖縄の海を貴女に見せたいですよ」
また後ろから聞こえてきた声に首だけ動かして振り向いたら、木手さんが目を細めて眼鏡を押し上げていて。
眩しい太陽の逆光でそれ以上は詳しく見えなかったけど。
それでもとてもカッコよかった。
──賑やかなバーベキュー。
その後も皆で遊んで。
日焼け止めクリームをもう一度塗り直そうとしたら、忍足先輩と謙也さんの挙動がおかしくなり、仁王さんは柳生さんに止められ、薫ちゃんと桃ちゃんはまた喧嘩を初めた。
結局、崇弘くんに塗ってもらったけども。
若くんと長太郎くんが「樺地だからっまだっ許すけどっ」とか二人して声をハモらせる。
夕食も、その後行った花火も。
とても大切な思い出になった。
小さな夏のバカンス。
私はきっと忘れないと思う。
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