壱・炎柱の人



「失礼するっ!」

門がドンドンっと大きく叩かれたのは、私が家督を継いだ日の真夜中だった。

今夜は十三夜だと、私が当主となって縁起が良いと使用人たちが騒いでいた夜だったので、よく覚えている。

もう既に眠りについていた私は文字通り叩き起されたわけだが、門の外に居るはずの鬼狩り様は、もう既に中庭のところに立っていた。

「これは……すまぬ!だがこちらも緊急だった故!うむっ、申し訳ないと思っている!」

ドサドサドサっと、夜中に不釣り合いな大声で炎のような明るい髪色の青年は抱き抱えていた三人の少年たちを縁側に落とした。
下ろした、と言いたいところではあるが、結構乱暴だったので落としたと言った方がいいように思う。

私の寝間着の浴衣姿に就寝中だったと気づいたのか、一度深く頭を下げてから真っ直ぐな瞳で私に三人の命を託そうとする。

「この者たちを頼んだぞ」

「少しお待ちを」

「む?」

私は闇の中去っていこうとする鬼狩り様の袖を掴む。
彼は不思議そうな顔をしていたが、首を傾げた際に額からタラりと血を流した。
私は黙って精一杯腕を伸ばしてハンカチで拭おうと頑張る。だがやはり平均よりも低い身長の十歳の子供では彼の額まで届かない。

私の後ろでバタバタと起きてきた使用人たちが、縁側で寝かされたままの三人の鬼狩り様たちの介抱を始めていた。

黒い隊服のみの三人の少年たちは、階級が低い鬼狩り様なのだろう。
そして白い羽織のこの方は、柱の方だと気付いていた。

己よりも弱き者たちを助け、怪我をしているというのに急いでまた闇の中に戻ろうとしている鬼狩り様。

一族の血の記憶が私に教えてくれる。
強く訴えかけてくれる。

「炎柱の煉獄様でございますね」

「うむっ!俺は煉獄杏寿郎だが…よもやよもやだ!」

知り合いだっただろうか?なんて表情をして首を傾げてから、煉獄様は私からハンカチを受け取ってくださった。
血を拭ってニコリと、私を安心させるように微笑まれる。

「では、行ってくる!!このハンカチはまた洗って返しに来るとしよう!」

「……ご武運を」

袖の奥に隠していた火打石を取り出して、カッカッと打ち鳴らし、切り火を行った。

私の行動にポンっと煉獄様が私の頭に手を置いて、わしゃわしゃと乱暴に撫でられる。

「では!」

遠いご先祖様の記憶が鮮明に甦った。

私が知らないはずの煉獄様の名を知っていたのは、煉獄様が鬼狩り様の中でも特殊な一族だったからだろう。
先祖代々それを続けている鬼狩り様は、もはや炎柱様しかいらっしゃらない。

私のご先祖様の頭を優しく撫でて下さった血塗れの炎柱様は、あの後どうなったのだろうか。

「……どうかご無事で」

遥か遠い昔に抱いた願いを、私はまた繰り返す。
あの麻のハンカチを返しにこられたら、煉獄様にうんと美味しいお料理をお出ししよう。

私は大きく頷くと、そっと涙を拭ってから若い鬼狩り様たちのお世話に向かうことにした。
既に使用人がお医者様に電話してくれている。
熱いお湯も、温かい清潔な布団も用意してあった。

「まずは……お体を綺麗に」

下ろしていた髪をサッと簡単に結ってから、袖の中から細い紐を取り出して、きゅっとたすき掛けをする。

もう日付が変わりそうだった。


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