漆・祖父の墓



柱の鬼狩り様が長く滞在することは珍しく、やはり水柱の冨岡義勇様も気づいた頃には既に出立されていた。

せめて切り火をしたかったと肩を落とすが、鬼狩り様で柱ともなるとやはり多忙なのだろう。
そう自分に言い聞かせ納得する。

相変わらず咲き乱れている庭の藤の花を見上げながら、大きくて立派なその幹にそっと掌で触れた。

木の息吹を感じられるほど、生命の温かさが伝わってくる。



「お嬢……あー当主様」

「春山さん」

振り返ると、春山さんがおにぎりが乗ったお皿を片手に困り顔で立っていた。
と、同時に腹の虫がぐぅっと短く鳴いて、私は長い間ここで藤の花を見上げていたことに気づく。

「……ありがとう」

顔が熱い。
腹の虫が盛大に鳴ってしまったことが恥ずかしくて、慌ててお皿を受け取った。

「逃げはしませんから、ゆっくりでいいですよ」

そんな私の様子がおかしかったのか、くっと喉を鳴らして、春山さんが微笑む。
お父さんみたいな年齢の春山さんの穏やかな笑顔に、余計顔が熱くなった。
その表情はまるで、私がまだまだ子供だなと言われているようだったからだ。

「……そうだ。当主様、明日は先代の四十九日ですね」

「……はい」

明日で忌明けとなる。
長いようで短かった。

もうおじい様が亡くなってから四十九日とは。

私が当主を継いだのも、昨日の事のように思うのにと小さく息を吐いた。

「誰か来るわけでもありませんから、静かにおじい様の極楽浄土を願いましょう」

「ですね……あ、でも、あの方は来られるかもしれません」

春山さんの言葉に「ん?」と首を傾げる。

「ほら……岩柱の鬼狩り様です」

「……あぁ」

祖父とよく話をしていた大柄の鬼狩り様を思い出す。
祖父が生きていて元気だった頃も、私と祖父を交互に見て、よくポロポロと泣かれていたものだ。
どうも私の両親が死んでいるということで、憐れに思われたらしい。

「……名前は確か……悲鳴嶼行冥様」

「そう、その方です!」

名前が思い出せなかったのか、私が漏らした台詞に春山さんは興奮気味で何回も頷いていた。

ひらひらと舞い散る藤の花びらが、私の着物の柄と重なる。

「……お墓……」

ふとその時、祖父の墓の前で大きな背中を丸めて、じゃらじゃらと数珠を鳴らしながら、ボロボロと涙を零している悲鳴嶼様の背中が浮かんだ。

きっと、今夜悲鳴嶼様は門を叩かれるだろう。

そんな予感がした。


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