素直な気持ちを吐露した

「姉貴も兄貴もどこに行ったんだか……」

はぁっと目眩がしそうな人混みに頭を抱える。
こんな時に限って、携帯電話を家においてきてしまった。後で姉貴に怒られるんだろうなとまた頭が痛くなる。

そうやって立ち並ぶ屋台と人の渦に途方にくれているときだった。

「流夏ちゃん、ちーちゃん、タマちゃん、どこぉーっ?!スマホも置いてきちゃったし、絶対怒られるよぉ……」

ブツブツと独り言を言いながら青い顔をしている夢野に会ったのは。
まさかこの花火大会に夢野が来ているなんてと、自然と緩む口元を慌てて手で覆った。

「夢野っ!」

人混みに流されてしまいそうな夢野の手を掴む。それからぐいっと流れの外の脇道に引き寄せた。

「おあっ、ゆ、裕太くんだ!!甚平着てる!!似合うねっ」

「あ、あぁ。ありがと……、夢野も……」

そこでやっと俺は夢野の全身を見る。
アップした髪と覗くうなじにも、紫陽花が咲いているオレンジ色の浴衣姿にも、その全てに目を奪われた。

「……可愛い、と、思う。それに似合ってるっ」

言い切った瞬間、顔面から火が出るんじゃないかってくらい熱くなった。

「あ、ありがとう!」

お気遣い感謝だよーと続けた夢野に「ほ、本当に、可愛いからっ」って大声出してしまって、もうこの場にいられないようなそんな落ち着かない気持ちになる。
ぐるりと夢野に背中を向けたら、くいっと甚平の裾を引っ張られた。

「……裕太くんにそう言ってもらって嬉しい、です……」

「なんで敬語……っ」

「て、照れ隠しかなっ?!」

振り向いたら夢野の顔も真っ赤で。
二人して赤い顔をパタパタと扇いだ。

「あ」
「あ……!」

ほぼ同時に発した声は空に高く打ち上がった花火に対してで。

「……一緒に見れて良かった」

上がった歓声に消されるぐらい小さな声で俺はポツリと漏らす。

花火が夜空に花を咲かせる度に、キラキラとした笑顔で魅入っている夢野の横顔がとても綺麗だった。

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