赤ちゃんで君のハートを釣り上げる

パンダの可愛い双子の赤ちゃんが生まれたらしい動物園に夢野さんを誘った。
我ながらずるい手だとは思ったが、こんなことでしか彼女が俺と二人で外に出掛けてくれる気になるとは思わなかったから仕方がない。
まぁこれも一か八かの賭けだったが。



「パンダ、パンダ!パンダちゃんーっ!あなたはどうしてパンダなのー」

ご機嫌なのか、夢野さんは謎のパンダ歌を歌っていて、ふんふんとスキップして歩いとる。
そして奇妙な彼女を可愛いと思ってしまう俺も、はたからみたら奇妙なのだろう。

「はぁー、仁王さん、本当にありがとうございますっ!一人で行こうかすっごく迷っていたので……」

パンダのことでだいぶ浮かれとるんじゃろう。
俺に対して満面の笑みを浮かべてそう言った夢野さんは、警戒心とやらをどこかに捨て去ってしまったらしい。

「もうすぐ会えますねっ、双子ちゃんたちにっ!!」

「ピヨ」

こくんと頷いたら夢野さんはまた満足げに笑った。
あぁ、可愛い。
俺の横でめちゃくちゃ笑顔の夢野さんにドキドキする。俺なんてアウトオブ眼中なのは百も承知だが。

「ほら、仁王さん、早く早く!」

俺に向かって手をさしのべてくれた夢野さんをガン見した。
いやいや、うまくいきすぎじゃろ。
これはもう距離感も崩壊しまくってるじゃないか。

だがそんなチャンスを逃すなんてバカな真似はしない。せっかく差し出された手だ。
ぎゅっと握ったら、気にするようすはなく引っ張られた。

あぁぁあ、これはデート!
デートに間違いないナリ……!
心臓がばくばくして死んでしまいそうじゃ。

楽しそうにガラスにへばりついている夢野さんをずっと見つめながら、彼女の話にうんうんと相槌を打つ。

今なら言えるかもしれない。
そうだ。そしてこのテンションの夢野さんなら、オッケーしてくれるかもしれんなり。

「……夢野さん」

パンダをうっとり眺めている夢野さんの耳元でゆっくりと囁く。

「……好きじゃ。……俺と、付き合って欲しいナリ」

「!っ、ですよね!……仁王さんの好きな動物ちゃんのとこにも行かないと!気づかなくてごめんなさい!」

振り向いた夢野さんの顔が間近で。

どうしたらそうなるのかとか、本当は全部気づいててわざと言ってるんじゃなかろうかとか色々考えた。
考えた結果「どこのエリアですか?」と微笑まれて、咄嗟に出たのは「……へ、ヘビじゃ」という一言で。

釣り上げようとした魚が、餌だけとって逃げていったなとため息をついたのだった。

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