傲岸不遜

山吹中学校


「お、あの子可愛いー!ラッキー」
「まぁ及第点ではあるな」

ペットボトルのコーラを口にしながら俺が頷けば「及第点どころかすごく可愛いでしょ」と千石が口を尖らせた。

「どうせ可愛くても中身は一緒だろ。俺たち男をアクセサリーかなんかだと思ってんだよ」

残っていたポテトを口に放り込んで咀嚼する。
塩の量、絶対けちってるよなと空になった入れ物をくしゃっと潰した。

「いやいやもう本野くんは一体女の子にどんなトラウマがあるの」

せっかく顔は氷帝の跡部くんもビックリなイケメンなのに。と続けられ、そりゃあ赤ん坊時代からモデルみたいなのしてるからなと答えた。つか氷帝の跡部くんって誰だよ。知らねぇんだけど。

「すごいよー!大金持ちの俺様で!いやでも本野くんも大概俺様だったね!」

笑いながらそう答えて少し残っていたらしいハンバーガーを全部口の中に入れた千石は、カウンターに肘をおきながらガラス向こうの道路をまた眺めた。

「千石はなんでそんなナンパするわけ」
「可愛い女の子がそこにいるからです」
「……バカなのか」
「失礼だな、本野くんは」

俺を一切見ずに頬を膨らませる千石に少しだけ口の端が緩んだ。

「じゃあどっちが多くの女の子のアドレス手に入れるか競争しようぜ?」
「ダメ。本野くんはそれやっても女の子のアドレス捨てちゃうし、返信すらしないからダメだよ」
「はぁ?じゃあ千石は全部に一々返信してんの?」

ぞろぞろウインドウショッピングを楽しんでるらしい女を眺めながら俺は欠伸をする。

「そりゃあそうでしょ。可愛い女の子は大切にしないとね!」
「返信大変なんじゃねぇの?」
「大丈夫大丈夫。何故か向こうからいつの間にか連絡来なくなるから!」
「……なんか、千石って色々残念だよな」

軽いノリがだんだん信用を無くすんだろうなと思って横目で千石を見た。本人はそれに気づいているのか気づいていないのか、あっけらかんとしていた。

「……好きな女とかいねぇの?」
「好きな子いるよー!てか女の子達はみんな好きだよー!」
「……それって俺よりたち悪くね?」

はじめから冷たい態度をとるのと、ずっと同じ距離感で誰に対しても変わらない笑顔と言葉を吐くのと、どっちが最低なんだろうなと口角を上げる。

「……いつかお前が本気になった相手を見てみたいぜ」
「あははー、俺より先に本野くんが本気の恋をしちゃう気がするけどねー」
「その時は教えてやるよ」
「お互いに取り合いにならなきゃいいけどー」
「なったら笑える」

もしそんな未来がくるなら俺の人生観とか全部ぶっ壊れた後だなと笑った。
想像すらできないその状況に肩が震える。

「メンゴ!俺行ってくる!」
「おう」

そう言って店を飛び出した千石が長い髪の女子に声をかけたところで、コーラが全部無くなって、ガラガラと小粒の氷だけがコップの中を占領していた。
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