ちっちゃい彼女を放っておけない
山吹中学校
──アイツ、またいやがる……。
もう日が暮れてきた時間帯。
そろそろ夕食時だろう。
なのに、いつも窓側の奥。
ババアの働いている喫茶店のその席に、そいつは日が完全に落ちるまで、そこでコーヒーを飲んでいた。
砂糖は入れない。
小学生みたいな顔をしているくせに、甘党では無いらしい。
「おい」
何度かそいつを見かけるようになってから、ある日俺は声をかけた。
外はもう暗くなってて、しとしとと静かに雨が降っている。
「…………なんですか?」
黒縁眼鏡を指で押し上げながら、小難しい小説を読んでいた女は俺を見上げた。
眼鏡のレンズのせいでかはわからないが、大きな目に俺の姿が映る。
声が少し上擦っているのは、俺が怖いからだろうか。
「てめぇ、まだ……帰らねぇのかよ」
「はぁ……。今日は雨なんで。もう少ししたら止まないかなって思いまして」
「今日は止まねえぞ」
「じゃあ濡れて帰るしかないですかねぇ」
淡々と答えながら、女ははぁっと小さくため息をついた。
「……送って行ってやるよ。傘、入れてやる」
「え?!」
酷く驚いた声を上げた女は目を見開いてプルプルと小刻みに震え始める。
「……ア?なんだ、てめぇ……」
「わ、ご、ごめ……!お姉さんが言ってた通り、優しい人だったんだなぁって……思いまして?」
いつも私の事睨んでるから、何かしたかなとウエイトレスさんに尋ねたら、心配してるだけだからーと笑われたんですよ。と続けて女は「私、本野悠希です」と笑った。
それから立ち上がって俺の横に立った女──本野は、俺より遥かに身長が低くて。
同い歳の女よりも低い気がする。
「……えっと、名前」
「亜久津仁」
「そっか、亜久津くん。今日はよろしくお願いします」
そう言ってぺこりと頭を下げた本野は、カランコロンと喫茶店の扉を開けた。
俺が黒の大きな傘を開けば「はー……でかい」と呟いて。
それから道中で「そう言えば亜久津くん、何年生ですか?」と聞かれる。
いつもめんどくせぇなって思うところだが、小動物みたいな本野に「三年」とだけ答えた。
「私は二年生ですよー」
そう笑った本野にやはり年下かと頷く。
それから本野が家だという一軒家の前で別れた。
それから暫くして、何回か喫茶店でアイツを見つけたが、特に会話することも無く、ただ会釈だけする日々。
そしてどこかの高校生の野郎共に絡まれて喧嘩した日のことだ。
なんと止めに入ってきたそいつの女が、あの本野と同じ制服を着ていて。
「てめぇ……高校生だったのかよ」
「え?亜久津くんもじゃないの?」
そうキョトンとした本野に「中三だ」と答えたら、今までで一番驚いたように声を上げてから、ケラケラと笑い始めた。
「あはは!!亜久津くん、年齢詐称しすぎっ見た目が!」
「それ、てめぇにだけは言われたくねぇ」
──言っておくが、俺はお前を最初見た時、小学生だと思ったんだからなっ!