ゾクリとするほどの秘密の愛
立海大付属中学校
本野悠希は俺たち立海の唯一の女子マネージャー。
働き者でサバサバとした性格から、レギュラーだけでなく平部員たちからも好かれている。
そんな彼女は一週間前から俺の彼女になった。
「……どうして、皆には言っちゃダメなんだ?」
部活が終わり、後は戸締まりだからと悠希以外を返した。悠希はまだ日誌を書いていたから、残っていても誰も変には思わなかったはずだ。
その俺と悠希しかいない部室内で彼女がポツリと漏らす。
「どうしてか、わからないかな?」
にこり、と笑顔で椅子に腰かけて日誌を書いていた悠希の背後に回った。
「わからない……。私は、隠れてこそこそするのが苦手なんだ」
「だからだよ」
皆に頼られて姉御肌な彼女が純真無垢な乙女のように俺の前だけでしおらしい女の子になる。
背後からぎゅうっと彼女を抱き締めた。
もう悠希の顔は真っ赤なのだろう。
部活中は必死に隠そうとしていたが、今は隠す必要がないからか蕩けたような表情になる。
それを見るだけで俺の中の何かがゾクゾクと震え、異様に満たされていった。
「……精市」
昼間は絶対に出さない甘えた声が俺の名前を呼ぶ。
「フフッ、そういえば昼間、名前で呼びそうになってたよね」
「あ……あれ、やっぱり気づいてたんだ」
「あぁ。無視しといたけどね」
それから髪の毛を指でよけてから、形のいい耳をかぷりと噛んだ。
「っ〜……!」
「声出していいのに」
「は、恥ずかしい……ことを」
「でもこの関係を全員に伝えるんでしょ?その方が恥ずかしくない?」
「それは……」
口ごもった悠希に口角が上がる。
俺は悠希から離れて鞄を持った。
「さぁ帰ろうか」
こくんっと頷いた彼女はもの足りなさそうな顔で椅子から立ち上がる。
それがまた面白くて唇は弧を描いてしまった。
決してバレてはいけない。
バレたら関係を終わらす。
そう勝手に決めて始めた。
「……悠希、柳や仁王には気を付けなよ」
「え?」
「あと赤也もバカだけど意外と鋭い」
気まぐれで始めたわりに、思いの外悠希にはまり始めた。
だからこそ彼女に注意を繰り返す。
素直に頷く悠希にまたゾクゾクと電気が背中を走った。
あぁ、どうか終わらせないで。
俺のこの興味を尽きさせないで。
この秘密の関係の保守が、君の俺への愛を図る唯一の方法。
歪んだ愛の形だとしても、それが俺の愛の形。