Dear 私の王子様

立海大付属中学校


拝啓、私の王子様。

蝉の声が煩く泣き喚いても、私の心はそれ以上に騒いでおります。
私は貴方のことがとてもとても好きです。
そうこの気持ちは運命の星の宿命。
あぁ、この茹だるような暑さ。私の心もとても熱いです。
私はいつもテニスの練習を見つめておりました。
ええ、貴方様のその素敵なお姿を……。
まるで騎士の如く凛と輝きを放つ、美しいフォーム。
その褐色の肌。
つるりとした頭皮ーー

「いやいやちょーっと待て!!」

「なんでしょうか?前の席の丸井くん」

私の妄想を止めるだなんて、腹立たしい。
男の子にしたらとても可愛らしい顔をしている丸井くんを見つめる。
わざわざ後ろに振り返ってまで、私になんの用事だろうか。

「いやいや!そんな変なポエムを頭の後ろで言われてみろよぃ!気になるだろぃ!しかも、その相手明らかにジャッカルじゃねぇか!!」

「ブンちゃん、ちょっと自分のことかなとか思ったぜよ?」

「な!違っ」

隣の席の仁王くんまで会話に入ってきた。
丸井くんは真っ赤になってフルフル首を横に振ってるし、もうどうでもいいから、二人で会話をし続けてくれないかな。

「……はぁ、私のジャッカル様……」
「「ぶぼぉ!」」

私が愛を囁くように大切にジャッカル様の名前を口に出したら、丸井くんと仁王くんが盛大に吹き出した。

「……汚いんだけどっ」
「い、いや、お前がジャッカルを様付けするからだろぃ?!」
「本野ちゃん、なんでそんなにジャッカルが好きなんじゃ?」

この二人、ちょっと私のジャッカル様と仲がいいからといって、簡単にジャッカルジャッカル言わないでくれないかな。
くそう、テニス部超羨ましい。
ジャッカル様と会話できるのもすごく腹立たしい!

「なんでとか、愚問もいいところだよ!ジャッカル様との出会いは入学式!あの日、道に迷っていた私を優しく導いてくれたんだよ!もはやこれは運命的な出会いじゃない?!なのに三年間一緒のクラスにに一度もなれないとか、神様の意地悪!丸井くんとか仁王くんとか生贄に捧げてもいいから、ジャッカル様と一緒のクラスになりたかった!!」

「お、おう、ていうか、ひどくね?」

丸井くんが目をぱちくりさせながら狼狽えて、隣では仁王くんが爆笑しているけど、もう私は止まらなかった。

「ていうかね?!テニスの試合も毎回ジャッカル様を見に行っているのに、私ね、他の女子に勝手に丸井くん狙いとか思われて本当に迷惑なんだからね?!大体、丸井くんの身体的フォローを常にしている気配りのできるジャッカル様の魅力になぜ気づかないの?!いや、気づかなくて結構!私だけがジャッカル様を好きでいいのよ!本当にあのはにかんだ笑顔とか!ふぁぁあ、ダメ、尊くて眩しいっ!無理ぃっ」

頭の中に浮かんだジャッカル様の笑顔で、脳内が溶けそうだった。
もう身体中が熱くて、考えただけでもこんなになってしまうなんて、本当に罪な人だと思う。

「声も、声もね、男らしくてカッコイイの!なのに、話しかけて本野って呼んでくれた時、すごく優しくて!うあわぁあん!ジャッカル様大好きですぅ!」

「……お、おうっ、ありがとうな!」

「はひ?!」

丸井くんと仁王くんの表情が途中からどこかおかしいなぁとは思っていたんだ。

振り返ったら、私の王子様ーーつまりジャッカル様がいた。
頭をポリポリとかきながら、頬を赤らめて私の背後に立っていらした。

きっと丸井くんに用事があったんだろう。
そうだ、彼はダブルスパートナーだから。

「でも待って、どこから聞いて……っ」
「プピーナ。私のジャッカル様って愛しげに呟いたところからじゃな」

通りで二人とも吹き出したわけだよ!!

「あ、あの、ジャッカル様……そのっ」

「あー……その、今日後で少し話さないか」

そう言えば今ここは教室の中だった。
熱く語っていたけど、クラスメイト全員にジャッカル様のことを語っていたわけで。

「はいーっ!もうどこでもついていきますっ」

キリッとした目が今は照れ臭そうに私から視線を外していて、それが本当に可愛らしくてたまらない。
私も直視はできないから、立派な割れた腹筋が隠されている腹部を見つめていたわけだけども。


((これであの変なポエム聞かないで済むようになればいいなぁ……))

クラスメイトたちがそんなことを考えていたなんて露ほどもわからなかったのだった。
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