中学生に恋をした

立海大付属中学校


彼――切原赤也くんを目で追うようになっていたのはいつからだろうか。
よく怪我して保健室にやってくる彼の手当てをして、そのたびにお茶やお菓子をねだられて一緒に会話をしたりした。
向こうからすれば、私はいい歳した大人だし。
ただの臨時の保険室の先生である。
それはきちんと理解してたし、彼が中学二年生であることも頭ではわかってた。
だけど、心はどうしようもなかった。
感情をすべて制御できるなら、禁断の愛の過ちも恐ろしい殺人も何もかもこの世に存在しないんじゃないかなと思う。
何が言いたいかというと、私は切原くんに恋してるのだ。
十二支がちょうど一周する年齢差で。



「悠希先生ーっ!ちょっと聞いてくださいよーっ」

放課後、ガラガラと保健室の扉が開き、部活中のはずの彼が赤くなっている頬を手で押さえながらやってきた。

「真田くんね」
「そうなんっす!ちょっとよそ見してたぐらいで!ひどいと思わないっすか?!」
「確かにちょっとやり過ぎかもしれないけど。……よそ見ってなに見てたの?」
「え……そ、それは」

小さく苦笑しながら切原くんに訊ねたら、彼は全身の体温を上昇させたかのように、顔を赤くした。それからもごもごと口ごもった様子から、心臓がきゅうっと締め付けられる。
聞いてはいけないのに、胸がドキドキして、困ったように目をぱちぱちさせている切原くんから目が離せなかった。

「赤也くん!!」
「うえ?!せ、先輩っ!」

突然の来訪者に驚いたけれど、その女の子が切原くんに「大丈夫?」と彼を覗きこんだ瞬間にすべてを理解した。

「ちょ、ち、近いっす!」
「あぁ、ごめんね!本野先生、赤也くんをお願いします。ドリンク、ここに置いとくね!」

それからペットボトルを置いて彼女が出ていくと、
名残惜しそうに切原くんが閉まった扉を見つめていることに気づいて苦笑する。

「さ、切原くん。こっちきて。冷やしましょう」

氷枕を取り出して切原くんに手渡し、もう一度苦笑した。

「あの先輩のことが好きなの?」

「なっ!なんで……って、バレバレっすよね」

「うん、バレバレだねー」

「でも……こんなんでも本人だけは気づかないんっすよ」

それはきついね、と切原くんの頭を撫でてあげた。
癖っ毛の髪の感触が手を通して心に刺さる。

「……頑張れっ」

うまく笑えたかわからないけど、切原くんに笑ったら彼も少しだけ笑顔を向けてくれた。

「やっぱアンタいい人っすよね」

「そうそう。恋愛でもいつもいい人止まりのパターンなの」

「え、俺が同い年だったら絶対付き合ってたのに!」

「あはは!大人をからかわないの。好きな先輩の顔もまともに見て話せないくせに」

拗ねた切原くんの横顔を見つめながら、キリキリと痛む胸中に顔をしかめる。
張り裂けそうなこの心を、早く捨て去ってしまいたい。

あぁ、残酷なことを言わないで。
私が同じ年ならなんて。
……今となってはもう、それはただの妄想だから。

切原くんが出ていったあと、私は一人号泣するのだった。
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