容量オーバー
《好きに呼べばいいだろ。……何囲まれてんだ、馬鹿女》

「……うわぁ、なんだって?!」

携帯電話を握り締めたまま叫んでしまった。でも仕方がない。吃驚したんだもん。
すごく視線を集めた気がするし、乾さんとか柳さんとかが怖いけど、仕方がないと思うんだ。

だって、そのメールの送信者は……

「ひよ──っわ、若くん!若くん!わーかーしーくーんっっっ」

「っ……」

名前呼びを許してくれた日吉くん改め若くんに向かって両手を振ったら、思いっきり顔を逸らされた。なので唖然としている桃ちゃんと柳生さんの間を通り、若くんの席に向かう。もうご飯も食べ終わっていたし移動しても怒られないだろう。


「若くんっ」

「五月蝿い黙れ」

ピシャリと額を叩かれたが、少しばかり赤くなっている若くんが可愛いのでプラマイゼロである。照れ屋さんめ。

「……誰が照れ屋だ」

「え、嘘聞こえた?」

「あはは、夢野さん、全部口から出てるよ」

「ぎゃー」

若くんに睨まれ、鳳くんには苦笑された。恥ずかしい。

「恥ずかしいのは、お前がここにいることだ。……おい夢野、お前面倒だから挨拶してないやつにも自己紹介済ませておけ」

突然、若くんの前の席に座っていたらしい跡部様が深いため息をつかれる。いや、そして今何て言った。

「……いちいち名乗られるのもウザいだろ。だからだよ」

「いやいや、跡部様。私もう名前を覚えられそうにありません」

今でギリギリ把握しているのだ。これ以上どう覚えろというのだろうか。しかもこれ以上私なんかがテニス部の方と知り合っても……

そう声に出そうとしたところで、私ははたと及川さんのメール内容を思い出した。
名前と顔を把握するためだとか言ったら、みんな写真撮らせてくれるんじゃないだろうか。及川さんの要望にも応えられて一石二鳥では。
悪魔が囁いた気がした。

呆れ顔の若くんを見なかったことにして、跡部様の了承を得た私は堂々とイケメンの皆さんを携帯電話の写真に収めるべく席を立つ。

まずは大浴場利用の順番が一番早い四天宝寺の皆さんからだ。
いや、まぁ……何人かはもう顔も名前も覚えてはいるが、私は只今友のためにイケメンハンターになっている。

「だから毒手の白石さんは外せないんです」

「よ、ようわからんけど……別にええよ。否、それより自分いい加減、その毒手ってのつけんでええで?」

「よし、次金ちゃん!」

「……ちょ、人の話聞いて?」

名前を知っている人は写真だけで済むから楽だ。金ちゃんを撮ってから、嫌がる光くんと「千歳千里ばい」と名乗ってくれたジブリの人を撮影する。光くんは横を向いてる写真になったが致し方がない。

「覚えてないやろうけど、白石と一緒に一回会ってんねんで。副部長の小石川健二郎や」

「ワシは石田銀や。よろしゅうな」

小石川さんは優しそうな人だった。石田さんも一つ上にすら見えない貫禄だったけれど、いい人そうだ。

「小春お姉様、写真を──」
「死なすど、ボケェ」

やはり一氏さんに睨まれる。けれど気を利かせてくれた小春お姉様が一氏さんとのツーショットを撮らせてくれた。……しかしどこから出したんだろう。アフロと武士カツラ。

「……光くん、金髪さんの名前を教えて下さい」

「…………忍足ヘタヤ」

一度聞いているはずなのに思い出せなかった理由がわかった。あぁ、忍足先輩と同じ苗字だから拒否反応が出たのか。

「俺ら従兄弟やねんで」

近付いてきてわざわざ耳打ちしてきた忍足先輩に目が柳さんみたいになる。いちいちセクハラをしないでくださいという無言の訴えだ。

「……それにしても、ヘタヤなんて変わった名前だね」

忍足さんーっと呼びかけて撮影させてもらってから、呟いたら光くんが何故か爆笑していた。……時々光くんがわからない。

それから何故か岳人先輩とジロー先輩がうるさかったので、予定になかったが氷帝メンバーも嫌がった若くん以外撮影した。重要なのは跡部様だったのでミッションクリアである。個人的に若くんメモリアルが撮れなかったのは非常に残念だが、及川さんは同じクラスの若くんの写真がなくても問題ないと思う。
この跡部様のドヤ顔ベストショットさえあればもうなんでも許してくれるはずだ。



「……んー、写真かぁ。詩織ちゃんがデートしてくれるなら──」
「十次くんー、壇くんー、他の皆様をご紹介お願いしますーっ」

次に向かった山吹エリアでは、千石さんをスルーし十次くんと壇くんに他の皆さんを紹介してもらう。
千石さんは参ったなぁと呟いていたけれど、笑っていたのでノーダメージみたいだった。そして部長の南さんと副部長の東方さんと挨拶を交わし撮影した後に、普通に撮らせてくれた。
ちなみに私は終始、新渡米さんの頭上の葉っぱと喜多さんの渦巻きが描かれたほっぺから目が離せなかった。
壇くん風に言うと、新渡米さんの葉っぱは嘘ダーンである。



「青学三年河村隆だよ」

そう頭を下げてくれた河村さんはどこか気弱そうな人だった。だけど驚いたことに、青学の人で言葉を交わしていなかったのはこの人だけだった。一応部長の手塚さんとはきちんと挨拶をしてみたけれど、既に会話した人ばかりだ。

「写真か。僕もよく撮るよ。僕は風景専門だけど、ね」

そう美しく微笑んだ不二さんを写真に収めて、青学の皆さんは終了である。薫ちゃんやリョーマくんは嫌そうな顔をしていたけれど、撮らせてくれたし。みんないい人ばかりだ。……手塚さんを撮る時はあまりの無表情に怒っているんじゃないかとヒヤヒヤしたけれど。


「……」

本当はここで食堂を出ても良かったのだが、タイミングを見計らっていたらしい丸井さんに捕まって、立海生が集まる場所に連行されてしまう。

「……ちっ」

あぁ、ほら。
切原くんが怒っているようだ。思わず背中が丸くなってしまう。

「特別にこの天才的な俺を撮らせてやるぜぃ?」

「……空気を読めないことが天才的です」

「なんだとー?!このっ」

「きゃー、ジャッカルさん、柳生さんーっ」

ずりぃー!なんて声が聞こえてきたが知るものか。早く撮影させてもらってイケメン図鑑を完成させたら、この場から一刻も早く逃げよう。

「……仁王雅治じゃ」

「あ、はい。立海にいたときは失礼しました」

「……夢野さん」

立海の人ともそこそこ会話を交わさせていただいていたようで、まだ話していなかった仁王さんと挨拶した。覚えていないとは思うけど、仁王さんから逃げたことを謝れば、何故か本人よりも柳生さんが嬉しそうだった。え、よくわからない。

「……今、我が部は部長不在なんだ」

柳さんを撮らせてもらったら不意にそう発言され、一番イケメンと話に聞いていた部長さんはいないのだとわかった。

さて、断られると思っていた真田さんまで撮らせてもらえたのには吃驚したが、今最大の難関が待ちかまえている。


「……なんだよ」

「あ、あの、切原くんもいいかな……?」

「……ちっ、別に……かまわねぇ」

「そうだよね、ダメだよねー…………っ、え、いいの?!」

なんと予想外の結果である。もしかしたら、切原くん、本当はすごくいい子なんじゃないだろうか。ぷるぷるとデータボックスに収められた切原くんの拗ねたような赤い顔に感動で震えた。


そしてすべてを終えたのと同時に食堂に榊おじさんが登場するのだった。

45/103
/bkm/back/top/
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -