尽きない興味
「……ふむ。その話しとやらは、ここでは話せない内容なのか?」

夕食を食べ終え、ゆっくりと忍び寄るように近付いた俺が背後に立ったからか、立海の柳生は一瞬びくりっと肩を震わせていた。

「な、なんだ乾君ですか。驚かせないでください」

「……すまない」

ふむ。
蓮二で耐性がついているかと思ったのだが……。面白い。これは書き留めておくとしよう。

俺がさらさらとペンを走らせれば、若干柳生は口角をひきつらせている。

「……こほん。取りあえず、私の話は特に聞かれては不味いというものではありませんよ。……そうですね、立海に夢野さんがいた頃からお伝えしようと思っていたことです」

「ほう。それは興味深い」

「……蓮二」

いつの間にか俺の隣には蓮二が立っていた。お互いノートを開いて準備は万端である。

「…………乾先輩が増えたみたいだ」

ぽつりと越前が漏らしていたセリフは聞き流す。

「……それで」

「え、えぇ。夢野さん、私は貴女の弾くヴァイオリンのファンなのです。もしこの合宿の自由時間内で宜しければ夢野さんに弾いて頂きたい曲があるのですが……」

俺が続きを促せば、柳生はそう言葉を続けた。柳生らしいセリフに、何人かが安心したのか意識を食事に戻したり、雑談を始めたりしていた。
だが、俺は違う。
この柳生には違和感を感じた。考えてもみろ。紳士だと言われている男がこのような注目を浴びる場で声をかけるだろうか。
現に夢野は少し困ったような照れたような表情を浮かべている。
いつもの柳生ならば、もう少し気を利かせた声のかけ方をするだろう。

……つまり、焦りか。

「……あ、ありがとうございます。私が弾ける曲でしたら」

「本当ですか!いえ、ありがとうございます。……私が好きな作曲家はヨハン・シュトラウスなのですが──」
「あ、美しく青きドナウでしたら、大丈夫そうです」
「──そうですか、楽しみです」

穏やかに微笑んだ柳生に夢野も笑顔を返す。
ふむ、代表作とはいえさすがだ。

「……俺はまたジブリの曲ば聞かせて欲しいばい」

「ち、千歳?!い、いきなり何言うとん?!え、いや、またってなんやねん!またって!!」

感心していたら、さっきまで黙々と料理を平らげていた四天宝寺の千歳千里が笑いながら挙手していた。隣の忍足謙也が一人で慌てている。

「……詩織、自分いつ千歳先輩に曲聴かせたんや」

「え、千歳先輩……?えっと、光くん、それってあそこの大きい……トトロ好きの人でいい?」

「おん」

「…………なんか防音室で、かな」

ふむ、なるほど。
このペンションで接触していたが、名前を知るほどではなかったということか。


「あー、すみません。少しいいッスか?……なぁ夢野。三船と連絡ついたか?なんか俺余計なこと伝えちまったんだが」

「あ、桃ちゃん!……犯人は貴様か……否、大丈夫ーだよー」

「…………」

今、途中すごく恨めしい声を発したな。聞こえたぞ、夢野。

話しかけてきた桃城も苦笑している。もちろん、近くにいる面子は全員聞こえていたようだ。

「……むぅ。がっくん、詩織ちゃんがバカでカバなんだけどー」

「そうだな。クソクソ俺らにもいい加減ツッコミしろよ!腕疲れたじゃん!」

「えぇっ?!まさかのツッコミ待ちっ?!」

「……すまんな。詩織ちゃん。こいつらアホやねん」

夢野の背後でずっと彼女を睨み続けていた向日と芥川に苦笑しながら、氷帝の忍足はデザートを完食する。

同時に誰かが夢野の隣にいる室町にタックルする勢いで近づいてきた。……千石か。

「いやー、室町くん、冷たいなぁー!!そう思わない?!オモシロくんっ」

「いや、だから……あーもう、俺に振られてもわかんないッスよ」

「……千石さん、どけてください、手」

「うわ、ほら冷たいなぁ!」

大袈裟に振る舞う千石にため息を吐く室町と桃城。それから食べることに満足したのか丸井が走ってくる。その時、ピロリンと間抜けな電子音が鳴った。


「……うわぁ、なんだって?!」

そしてすぐに夢野がそう叫んだ。手元には開かれた携帯電話がある。

ふむ、どうやら叫んだ原因はそれのようだが……


ちらりと横を見たら、蓮二も見ていたらしく、お互いに無言で頷いたのだった。

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