お隣さんは笑わない
「……よろしく」

短くそれだけを吐き出すように言ってから、お隣さんの男の子はすぐに視線を教卓に向けた。

涼しげな瞳の、変わった髪型の男の子。

「……お隣さんは、美人さんだった」

そんなことを思いながら、窓の向こうを眺める。クラスメートさんたちからの視線は気にしないでおこう。
反応があるのは当たり前なのだから。

だけど私は気づかなかった。

さっき頭の中で思ったことを口に出していたなんて。

そしたらきっと、阿呆をみるような視線がお隣さんから発せられていたのを気づいたのに……





「……お昼、か」

お弁当を作る暇はなかったし、榊おじさんから学食があると聞いていたので、そこに向かうことにした。

その前に、これまで休み時間の度に話しかけてくれた篠山さんに声をかける。

黒髪を肩の上で切りそろえている女の子で、利発そうな顔立ちとはきはきとした話し方が特徴的だ。
聞けば、報道部らしい。納得。

「あ、夢野さん学食なのね。じゃあタマもいきましょう」

「そうねー、行きましょうー」

猫みたいなあだ名なのは、及川さん。
篠山さんとは幼なじみでずっと一緒らしい。

ゆるっとした巻き髪で、少しふくよかな体型は篠山さんと対照的だ。
性格ものんびりとした感じのように見える。

「あ、ありがとう」

お礼を言えば、友達だもの。当たり前よ。と返された。

夜に流夏ちゃんに電話しよう。素敵なお友達が二人も出来ましたって。


「……うわ、豪華。美味しそう。おっと涎が」

ふと二人の後について行こうとした時、お隣さんが自分の机の上に広げているお弁当の中身を見てしまって、うっかり口に出してしまっていた。

でもお隣さん……

「……友達いないのかな」

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