信じられねぇもんを見ちまった。
まさか、こんな場所で夢野詩織を見かけるとは思わない。
見間違いか人違いじゃないかと思い、何度か見直したがやっぱりアイツだ。
軽井沢の、テニス部の合同合宿の宿泊施設として貸し切っているはずの、このペンションに何故アイツがいるんだ。
「む。どうした、赤也。食事が進んどらんぞ」
「い、いや、そんなことないっすよ!」
隣の席の真田副部長が訝しげに俺を見てきたので、急いで手元の料理をかけ込む。
あんまり気を取られていたら、たるんどる!と鉄拳制裁が飛んできそうだ。それだけは嫌だ。
それでも気になって、ちらちらと様子を窺った。
何故か夢野は、氷帝のやつらと仲良さげに話している。
もしかして、転校先が氷帝なのか?
だからって、なんでここに……つか、夢野のヤツ、あんなに喋るヤツだったのか?
次から次へと疑問が沸いてきて、その度に異様にむしゃくしゃした。
アイツが、氷帝のヤツらと楽しげに会話しているのを見ると、すっげーイライラしてくる。
なんなんだ。わけわかんねぇ。
「……おい、貴様ら。味わってるか?アーン?」
そこに、マイクを片手に氷帝の跡部さんが食堂の中心に立った。
跡部さんの後ろには、青学と山吹の顧問が控えている。
「相変わらず、目立ちたがり屋め」
真田副部長がふんっと鼻息を荒くしたが、振り返るのは止めた。
「本当は大阪の四天宝寺もこの場にいるはずだが、どうやらトラブルが遭ったらしくてな、到着がもう少し遅れることになるようだ。……で、昼食を食べたら即練習を始めるが、その前に……夢野!」
「ははははいっ?!」
跡部さんが夢野の名前を呼び、さっきからずっと小さく丸くなっていた背中が勢いよく伸びた。
「この女は夢野詩織。訳あってこの場にいるが、うちのテニス部のマネージャーでもなんでもない。合宿中、同じペンションに宿泊しているだけだ。だから、気にするな」
「ああ跡部様、無理に紹介しなくても良かったのでは!」
「あぁ?馬鹿、あの女誰だよ?って聞かれる度に毎回俺様に説明しろっていうのか。面倒だろ、馬鹿」
「わぁん、跡部様が馬鹿二回言ったー!日吉くんっ」
「俺に振るな、話しかけるな、他人の振りをしろ、馬鹿女」
「うぁあっ」
「大丈夫やで、なんなら俺の胸貸したるから、思う存分泣き」
「話しかけないで下さい、忍足先輩、親しいと勘違いされる」
「なんでやねん」
……マネージャーじゃないのは分かった。
でも、その割には打ち解け過ぎじゃね?
「……つか、なんか違う」
あぁやってアイツが笑ったり色んな表情を見せるのは、三船流夏だけだと思っていた。
なんだよ……っ
んな簡単に男に笑うんじゃねぇよ!
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