しがみついて離さない
──なんやあっという間やった……。


「金ちゃーん、もうそろそろ夢野さん離したりー」
「そやで、金太郎はん。もう夜も更けたことやし……」

白石と銀がそう言っているのはわかったんやけど、ワイはぎゅうっとねーちゃんの背中に引っ付きながら、ふるふると首を横に振った。
三船のねーちゃんは、もう既にここにはおらん。なんや学校の代表で来てたから、帰りは顧問の先生たちと帰るらしく、既にホテルに帰ってた。

「嫌やー!まだ、ねーちゃんと遊ぶーっ!もう一日ぐらい大阪に居ってぇなぁー!」
「はぐっ?!金ちゃんが可愛すぎて死にそうっ」
「?!死ぬんはあかんーっ!死なんといてぇー」

ねーちゃんの台詞に慌てて顔を上げたら、振り向いたねーちゃんは困ったような笑顔でワイのほっぺをフニフニと触る。

「金ちゃん金ちゃん、また東京で会えるよー!全国大会はもうこれでもかって皆のこと応援するからねっ、いや応援させてねっ」

それから「あわわわ、金ちゃんのほっぺ柔らかい、可愛い……」とまた独り言を口にしてた。

「俺のほっぺも柔らかいと思うよ〜」

芥川っていうにーちゃんがワイに対抗するようにねーちゃんの手を持ち上げて自分のほっぺを触らせる。このにーちゃん、前もこんな感じでねーちゃんを連れていこうとするから、ちょっとムッとしてねーちゃんのもう一つの手をぎゅうって握った。

「あ、ジロー先輩も確かにふにふに。って……痛っ」
「え……わ、か、堪忍な?!」
「こら、金ちゃん、力加減せな……すまんなぁ、夢野さん」

白石に注意される前にちゃんと謝ったのに……。

「いえ大丈夫ですよ。あ、白石さん、今日は本当に魔法の杖ありがとうございましたっ!お言葉に甘えてしまいすみません」
「や、改まってお礼言われると、こそばゆいな……」

「むー、魔法の杖ってなぁにー?」

白石がねーちゃんの前で照れくさそうにしたところで、芥川のにーちゃんが首を傾げつつ、ちょっと不機嫌そうな顔になった。

「へへん、その杖があったらな、魔法が使えるんやで!ねーちゃん、雪とか水とか、ぴゃーってしてたもんな!!」

ワイがにひひって笑うと、芥川のにーちゃんは目を見開いて「マジマジ?!それ、俺も見たかったCー!!」と急に笑顔になる。
その時になってワイはやっと、芥川のにーちゃん、実は眠かっただけやったんかなとちょっと思った。

「というか……今の、白石さんからプレゼントしたってことですよね?宍戸さんっ」
「え、あ。そ、そうなるのか……」

芥川のにーちゃんの後ろで、鳳のにーちゃんと宍戸のにーちゃんが顔を見合わせる。

「ふぅん……。謙也だけやなかったってことやな」
「……クソクソ!お、俺だって今度……っ」
「……下剋上だ」

それから謙也の従兄弟のにーちゃんとかの顔色も変わって、もうなんやようわからんけど、みんなねーちゃんのこと好きなんやなって思った。
そしてそこでやっとある事を思い出す。

「あ!!ねーちゃんっ!」
「え、何かな?」

小首を傾げてワイを見たねーちゃんに「今から言う数字、携帯電話で打って!」と数字を順に口に出し始めた。ねーちゃんはビックリしてたようやったけど、慌てて数字を入力していってくれているようやった。

「ど、どうしたんや、金ちゃんは……」
「いや……俺に聞かれても……謙也さんはわかります?」
「小石川、財前。俺にわかると思うんか?」
「いやすんません。人選ミスりましたわ」
「財前んんっ……!」

泣いてる謙也がちょっと面白かったけど、ワイはねーちゃんに続けた。

「それで電話のボタン押してな!」
「ん?おっけー!」

ねーちゃんの指が電話のマークを押す。ほとんど同時にワイのリュックの底からピロロロと音を鳴らした携帯電話を掴んだ。

「へへっ!もしもし、ねーちゃん?」
「もしもーし……金ちゃん、私はこんなゼロ距離の通話生まれて初めてだよー」
「わはは!ワイ、ねーちゃんの初めて奪ったったー!……えっとなぁ、かーちゃんになぁ買ってもらってん!せやから、ワイの番号ちゃんと登録しといてな!」

通話終了や!と電話のマークを今度はワイが押す。目の前のねーちゃんに笑いかけたら、芥川のにーちゃんはねーちゃんにもたれ掛かりながら寝てた。

「……やるばい。金ちゃん、たいぎゃ自然な電話番号登録やなあ」
「金太郎さん、めっちゃキュンキュンきたわぁ!」
「小春ぅ、浮気か!」
「……つぅか、なんやエライ事口走ってたやんな……」
「クソクソ侑士!エロい事って聞こえただろ!責任取れ!!」
「なんでやねん……」
「……フン。あのチビ、やるじゃねぇの」
「うん、なかなかやるねー」
「ウス……」

千歳を始めに、みんななんや言うとったけど、よぉわからへん。
でも携帯電話にねーちゃんの番号が入ったんが嬉しくて、ちょっとだけ背中がこそばゆいような……ムズムズした。

「え、あれ、もしかして、夢野さんの番号知らんの俺だけちゃう?!」

謙也は前に従兄弟のにーちゃん通して知ったーって喜んでたから、白石だけやなーと同意したら、めっちゃ白石が慌てて携帯電話を取り出す。
なんや光が舌打ちしてたけど、今日はちょこちょこ機嫌悪そうやったし、もう眠いんとちゃうかなー。

「白石さんの登録名どうしようかな……クーちゃん、とか」
「え……?!」
「あはは、冗談ですよ?」

ポカンとした白石の顔がおかしかったんか、ねーちゃんは小さく吹き出すと「えくすたしらいしーさん……」と打ち込んでた。また白石が「そ、それは嫌やわ!」と慌てたけど、やっぱりねーちゃんの冗談やったらしくて、普通に白石さんって登録してたらしい。

「……というか、お前も重くないのかよ」
「あ、若くん、ありがとー」

それから、完全に爆睡してた芥川のにーちゃんを日吉のにーちゃんが抱える。

「それで跡部さん、詩織ちゃんが乗れる乗り物って……」
「あぁ、これだ!!」

それからワイのもう一日おったらええのにっちゅーお願いは流されて、鳳のにーちゃんが尋ねた台詞に跡部のにーちゃんがパチンッと指を鳴らした。
同時にパッとさっきまでエンジンすらついてなかったのに、駐車場に止まっていた大型トラックが灯りをつける。
ブロロロと大きな音を立てて、ワイらの真横の車道に止まった。

な、なんや、ごっつ魔物みたいな……!

そう思ったところで、トラックの後ろの扉みたいなんが開いて、ワイらはポカーンと口を開けたままそれを見上げる。
通りすがりの人達もビクッと反応してた。

「……んぁ?……はっ!な、何コレ何コレぇー?!Aええ?跡部、スゲーCー!!」
「ハーハッハッハッ!夢野の為に特注で用意したキャンピングカーだぜ!!どうだ夢野!」
「や、やめて、跡部様っ!その高笑いとともに大声で私の名前連呼するのやめて下さいっ!」
「……名前呼ばれてへんけど、俺も今めっちゃ恥ずかしい……」
「クソ、激ダサだぜ……!」

目覚めた芥川のにーちゃんが大興奮して大声で叫んで、跡部のにーちゃんの高笑いが辺りによぉ響いた。
ワイらはポカーンとしたまま一部始終を眺めとったけど、どうやら氷帝のにーちゃんらも戸惑っているようやった。

「けっ、相変わらずてめーは派手な事ばっかしやがるな……」
「アーン?亜久津、俺様は今の今まで律儀にそこにいたお前にビックリだが」
「う、うるせぇな!出ていくタイミングがなかったんだよ!」

それから目つきの悪い亜久津のにーちゃんが慌ててなんや怒鳴ってて。
そしたら、ねーちゃんが「仁さん、今日はありがとうございました」って笑ってた。けって舌打ちしとったけど、亜久津のにーちゃんもなんやかんやで嬉しそうに見えた。

「じゃあ金ちゃんまたね!」

それから順番に挨拶してたねーちゃんが、最後にワイの頭を撫でる。
なんやわからんけど、そん時だけ時間がゆっくりに思えた。

「ねーちゃん、またなぁあー!」

せやから、ワイは精一杯大声を張り上げてブンブンっと元気よく手を振る。
それからぎゅっと、ねーちゃんの番号が入った携帯電話を胸に抱いた。

79/140
/bkm/back/top/
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -