その笑顔は俺に向けられてない
「あー!なんだよぅ、これぇ!」

「どうしたんだ?英二」

俺が荷物を背負ったタイミングで大声を上げたからか、大石が心配そうに見てきた。
他にもタカさんとかがビックリしたような顔で俺を見てる。

「ぶーっ!これこれ!向日から送られてきたんだけどにゃー」

俺が携帯電話をブンブン振って大石に見せたら、背後からヌッと乾の影が俺を覆った。

「うわぁっ!心臓に悪いってば!乾ぃー!」

「いやそれはすまなかった。……だが、そこに映っているのは、夢野さんと向日じゃないかな?」

「そうそう!」

乾の声にうんうんっと大きく頷く。
桃と海堂、おチビが夢野ちゃんの名前にぴくりと顔を上げていたのが視界の端で見えた。

「夢野さんが向日くんと……どうかしたのかい?」

大石が不思議そうな顔で首を傾げるから、大石によく見えるように携帯電話の画面を向ける。後ろからひょこっと桃が一緒になって覗きに来てた。

「……ん?もしかしてここは……」
「はぁ?これ、大阪のテーマパークの中じゃないですか!夢野が三船の応援に大阪行ってるのは知ってたけど……向日さんまで一緒とは聞いてねーな、聞いてねーよ」

大石の確信の言葉に続けるように素っ頓狂な声を上げ桃が頭をかいた。

「違う違う!ほら、これも見て!」

「これは……」
「集合写真っすね。氷帝の人達と四天宝寺の人達と……亜久津さん……」

もう一つ向日から送られてきたんだと息巻いて見せた写真に、今度は大石の台詞をおチビが奪った。

「へぇ。亜久津まで一緒なんて変な組み合わせだね」
「……は、ははっ、ごめん、それたぶん。優紀ちゃんが商店街の賞品でテーマパーク宿泊券当たったって言ってたから、それでだと思う、よ」

いつの間にか不二も部室にいて、自身のラケットを片付けながら笑えば、タカさんが苦笑しながらぽつぽつと漏らしている。
それを聞いて亜久津がいる理由はなんとなく想像ついたんだけど、氷帝レギュラー全員(プラス滝とかいるけど)とか、ちょっとズルくない?

「……ふしゅうぅ。余裕っすね、アイツら……」

海堂がけっと舌打ちしてた。

「海堂!そこじゃないよ!夢野ちゃんと一緒に遊びに俺も行きたかったにゃー!」
「英二?!」
「そ、そこですか……」

俺が大声で悔しがれば、大石は冷や汗を浮かべるし、海堂は戸惑っていたけど。
でもでも、二人とも絶対俺と同じこと思ってると思うんだよね!

「そうっすね。俺と英二先輩と越前はケーキバイキングでばったりしたってのはありましたけど……」
「そうそう!不二とかズルいよね?!プールだよ?!」

プールって言えば水着じゃん!!って穏やかに笑っている不二の背中をばしばししたら「痛た……」と笑顔で思ってもないことを口にされた。むう。

「ふむ。今日の夜には帰ってくるはずだが、跡部がいるとなると、ナイトパレードも見る確率が高いだろうな」

乾のセリフに「うわぁ!羨ましいー!」ってまた叫ぶ。

「え、英二。どうしたんだ?今日はそんなに悔しがって……」

らしくないぞって言われて、頬を膨らませる。

「大石はもう一度、この写真を見たらいいと思うよ!」
「わっ!」

携帯電話を大石の手に放り投げて、部室を出た。
西日になってる夕日が本当に眩しくて思わず目を細める。


──向日と楽しそうに笑っていた笑顔は、カメラ側に向けられていなくて。
それがなんだか悔しくて。
集合写真だって、笑顔がカメラ側に向けられているとはいえ、それはカメラを持っている人に対してだってわかった。

どっちにしろ、夢野ちゃんの笑顔は俺には全くもって向けられていない。

「大石も大石だよね!全然自分の気持ちに気づいてないんだから!」

もう本当にそういうとこ鈍いというか、慎重すぎるというか……!

だんだんイライラしてきた。

「ん?部室前で腕をじたばたさせて……どうかしたのか?」

そしたら、部室に入ろうとして歩いてきた手塚にそう声をかけられたもんだから、はっと我に返る。

「いや……なんでもにゃい」
「そうか」

ぽつりと漏らして手塚に道を譲った。
鉄仮面みたいな無表情で頷いて、大石と交代で部室に入って。
出てきた大石にはーっと溜息をついたら、また困ったような顔をされる。

「……少しは落ち着いたか?」
「んー……手塚の無表情見たらだいぶねー。でも大石は少しは慌てた方がいいよ!」

さっ、帰ろっと大石の背中を押して「え?え?」と焦っている大石の顔に少しだけ吹き出した。

「おチビの台詞を借りればー……まだまだだね」

今夜は星が綺麗に見えるだろうなって思って、夢野ちゃんにメールしよって考える。


──君とたくさん遊んで、君の笑顔を独り占めすることが、いつか出来たらいいのに。

……なーんて。

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