「自分、ほんま元気やし……スパイダーマン好きやなぁ。俺は一回でもうええわ……」
隣でジジ臭く肩を竦めた侑士を信じられないものを見る目で見てやる。
「マジマジ俺も超面白かった!!」
「スピード感あって良かったわ」
「だよな!!」
ジローと、侑士の従兄弟にうんうんっと頷き返した。同じ忍足でも性格真逆だよなぁとかぼんやり思う。
「うふふふ」
そんな会話をしながら出口に向かう坂道を歩いていたら、後ろで詩織が変な笑い方をしていた。
手元を見たらさっきのアトラクション出口で販売していたバカ高い写真を購入したらしくニヤニヤして見てる。
「夢野さん、それ二枚とも買ったん?自分が写ってないのも買ってるやん」
「えへへ、折角なので!ここに皆さんと来た記念に!それにしても小春お姉様と一氏さんは写真のタイミングバッチリですねっ!」
「前にも来たことあったからなぁ、なぁユウくん」
「そやな、小春!……中間くらいで電気のやつが変なボール投げてくるとこやで」
白石のセリフに独り言みたいに答えてから、金色と一氏に頭を撫でられていた。
「俺にも見せてみそ」
ちょっと気になって写真を覗き込む。
詩織はどうぞどうぞと笑って手渡してきて、その後隣にいた三船と会話を始めていた。
──そうじゃねぇーんだけど。
面白くなくなる。
ただ、並んでお前と同じ写真を覗きたかっただけなんて言えねぇし。
「ぷ。日吉の顔変なの」
「は?向日さんだって必死な顔してるじゃないですか。てか3Dグラス似合ってませんよね」
「クソクソ!みんな似たようなもんだろ!」
つまんなかったから、日吉の変な顔を口に出したら日吉に上から目線で鼻で笑われる。
くっそー!コイツ、俺より視線が上だからっていい気になるなよな!
「ふん、おい詩織、これ返す」
「あ、は──いいっ?!」
吃驚した。
詩織に写真を返そうとしたら、そのうちの一枚がひらりと風に攫われて。
必死に手を伸ばした詩織が坂道の通路の手すりから身を乗り出したのだ。
「ちょ、詩織っ!」
「夢野っ」
バッと手すり向こうに前転して、詩織の体を押した。
どうやら日吉が詩織の片腕を掴んでたらしくて、そのまま詩織は通路側へと引き戻される。
「だ、大丈夫?!」
「おい、無事か?」
鳳と跡部の声が重なり、四天宝寺のやつらも「心臓に悪いわぁ」とか話していた。
「わ、私は大丈夫です!若くんもありがとう。それから岳人先輩も……っ」
「おう!別にこんなのなんでもねぇし──」
元々俺がきちんと写真を手渡せなかったのが原因だし、手すりを今度はバク転で戻って、詩織に向かってピースしたらその手がグッと掴まれた。
ちょっとだけ震えている詩織の手に目を見開く。
「岳人先輩は本当にアクロバティックで、すごくてかっこいいんですけどっ、でもっ、無茶しないでください……っ、私が落ちるよりも、岳人先輩が怪我しそうで怖かったじゃないですか……っ!でも、でも本当にありがとうございました」
「──ん、怖がらせてごめん」
素直に言葉が出てきたのは、詩織が必死だったからだろうか。
「詩織ちゃん、写真ちゃんとここにあるから」
「おう、汚れてもねぇぜ」
鳳と宍戸がそんなことを言って詩織の視線が俺から外れる。いつの間にか外された手の感触が心臓鷲掴みにされて持ってかれたみたいで気持ち悪い。
「にーちゃん、大丈夫かー?」
ぼーっとしてた俺に気づいた遠山に「お、おう、全然平気だぜ」と誤魔化すように笑って返しといた。
「……岳人?」
それから違うアトラクションに乗るために移動してる道中で、侑士が俺に眉間の皺を寄せて怪訝そうな顔をする。
「熱あるんとちゃうか?顔赤いで」
「な、なんでもねぇよ!クソクソ侑士のアホ!理由、分かってるくせにっ」
「……さぁ、どうやろ……」
気だるそうに目を細めた侑士は「岳人相手でも俺は遠慮せぇへんからな」とまた呟いてた。
──時間が経てば経つほどに、顔が熱くなる。
前から頼られたかったけど、その理由があんまりよく分かってなかった。
でも、ただ、憧れのヒーローであるスパイダーマンのように、お前の笑顔守れるヒーローになれたらいいのに。
そんな子供じみたことを考えていたら、身体中の熱が沸騰しそうだった。
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