水も滴る……
昼食をジョーズのエリアで食べて、ついでにジョーズのアトラクションに乗ったり流夏ちゃんと鮫に頭を齧られるように見える記念写真を撮ったりした。
ちなみにアトラクションのボートは貸切状態で、流石跡部様となった。
あと、ジョーズが襲ってくるところでビクゥってしてた岳人先輩と宍戸先輩を見てしまったのと、四天宝寺の皆さんがクルーのお兄さんに絡んでてクルーのお兄さんと変な絆が生まれていたのを私は忘れないだろう。

「……七不思議ツアーとかあれば面白そうだよな」

そんなことをポツリと漏らした若くんはとても邪悪な笑みを浮かべていた。いや、たぶんこれすごく楽しそうな顔なんだろうけど、めっちゃ悪役みたいな笑い方してた。

「アーン?なんだ、昼間のパレードがもうそろそろ始まるらしいぞ」
「あ、ウォーターパレードですよね!」
「ウォーターガン持っていけば、参戦出来るらしいですよ」

跡部様のセリフに私が大きく頷けば、流夏ちゃんがニヤリと笑って続ける。どうも流夏ちゃんは、ウォーターガンをタダで(跡部様に購入してもらい)手に入れようとしているように見えた。

「ハッ!面白そうじゃねぇの!樺地、萩之介、人数分買ってこい」
「ウス」
「人数分ってやるねー」

まんまと流夏ちゃんにのせられた跡部様が崇弘くんと滝先輩にクレジットカードを手渡す。買いに行った二人もなんだか楽しそうにしていた。


「俺、夏のこれに参加すんの初めてやわ……」
「つかめっちゃええ所に案内されてもうたけども……!」

白石さんと謙也さんがオロオロしつつ、辺りを見回す。私もお二人と同じような動きになった。だって仕方がないと思うんだ。明らかに有料エリアであり、大型のフロートやクルーの人たちと距離の近い場所に今いると思う。

「ふふふ、詩織、滾るわね!財前に仕返しがやっとできるわ!」

流夏ちゃんの悪そうな笑顔に私は悟った。
これは修羅場になる。
いや戦場になるのだ。間違いなくクルーとか知り合いとか関係なく水浸しになる予感しかしない……!

私はフロートの到着がまだなのを確認すると、跡部様の近くに立っている崇弘くんを中心に壁を組み立てることにした。

「崇弘くん、長太郎くん、千歳さん、仁さん、石田さんも、あと跡部様もちょっと私に背中向けてぐるりと立ってください」
「う、ウス……?」
「え、え、どうしたの?詩織ちゃん……」
「どげんしたとね?」
「あ゛……?」
「む、もしや……これは」
「……アーン?お前、俺様を壁にしようとしてるんじゃないだろうな?」

正しくその通りである。
暑いので多少なら水を被ってもいいが、全身びしょ濡れは勘弁していただきたい。

「……皆さんを、頼りにっしてます……」

ちょっと吹き出しそうになった。
プルプル震えながら言葉を最後まで言い切る。
私は勇者だ。なぜならあの跡部様と仁さんまで壁にしようとしているのだから。

「クソクソ詩織!お前、一人だけ……!」
「岳人先輩のアクロバティックなら、きっと華麗に避けられますよ!……だから人の視線を集めて攻撃も集めてくださいっ」
「へへ、当たり前じゃん!っていうかよ!お前、最後まで聞きゃあ俺を囮にする気か!」

くっ、バレてしまったか!しかし、岳人先輩とジロー先輩はなんだか狙われそうな空気がするんだから仕方がない。

「……っ、下剋上だ」
「せやな。身長も伸ばさなあかんとは……」

若くんと光くんが共闘しそうな雰囲気で背中を合わせだしたが、光くん、超流夏ちゃんに狙われてるから気をつけて!ちなみに滝先輩が流夏ちゃんと仲間として協定結んでいるのをさっき目撃した。

「いや、詩織ちゃん、俺の方が跡部より身長高いねんで?猫背やからわからんかもしれへんけど……」
「はっ!あ、跡部様チェンジで!!」
「ふざけんな」

忍足先輩のセリフに跡部様に叫んだら拳骨を落とされた。
超痛い!!……いや私が失礼なこと言ってるからだってわかってるけど、それでも容赦無さすぎである。

「小春……!小春のことは俺が守ったるからな!」
「ユウくぅん……!」
「しかし、小石川はええな!存在感薄いから誰にも攻撃されんかったりして」
「謙也、後ろから撃ったるからな……」
「後ろから攻撃されて濡れたら激ダサだな!」
「……俺、壁に呼ばれへんかったん、地味にショックやわ……」
「むー、俺、詩織ちゃん狙おー!マジマジ頼りにしてくれなかったからー」
「あはは!なんやわからんけど、ねーちゃん狙えばいいん?」

小春お姉様と一氏さんの通常運転を眺めつつ、謙也さんと小石川さん、宍戸先輩の会話に笑っていたら、白石さんの後ろにいたジロー先輩と金ちゃんの声にひいっと顔を青ざめた。

あの二人に狙われたら、なんだかびしょ濡れになってしまう予感がする!
そう思ったけど、時は既に遅かった。

もう結局、仁さんが大人しく壁になっているわけもなく、跡部様も濡らされて大人しくしている人でもなかったのだ。








「くちゅん……っ!」

ウォーターパレードが終わる頃には全員びしょ濡れで。
確かにもうずっと笑いっぱなしだったけども。
途中からもうやけくそで撃ちまくって一番濡れた気がする。
パンツまで濡れちゃったなぁと着替えたい衝動にかられる。さすがに水を吸い込んで重くなったので魔法使いのローブを脱いだ。
そしたら、目の前で私を見ていたらしい長太郎くんが呆然とした顔で口を開けたまま私を見ている。
あー、さっきのくしゃみは風邪を引いたわけでは無いよ!と意味を込めて、へらって笑いかけたら途端に真っ赤になって、長太郎くんが肩にかけてた鞄からバスタオルを取り出して私の上半身を包んでくれた。

「え、え?ど、どうしたの?」
「えっと……、はっ!三船さんは……っ!」

長太郎くんが慌てて顔を上げて流夏ちゃんを探す。

「私ならここだけど」
「いやぁん、三船ちゃん!それ、スネイプ先生やないのー!」
「いいでしょ、セブルスTシャツ」

どうやら、白のブラウスの下に着ていた黒のスネイプ先生のリアル顔が描かれたTシャツが水に濡れたせいで透けて見えていたらしい。
小春お姉様に自慢げに語る流夏ちゃんは大変満足そうだった。

「……あ」

つまり、私も透けていたのか!
とハッと理解して、バスタオルの下をちらりと見たら、思いっきり下着が透けてた。一大事だったのだ。は、恥ずかしい……!

「あ、ありがとう、ね!長太郎くん!」

そしてお見苦しいものをお見せしてごめんなさいって謝ったら「いや……そんなことは……」と俯いてて、ちょっとその表情が可愛らしくてキュンとする。




「……あれ?白石に謙也、それにユウジもどないしたん?」
「い、いや別に……なんもあらへんで」
「あ、あぁ!俺は何も見んかった!」
「そうやで、謙也。誰があのアホの下着姿を見て喜ぶねんっちゅー話や」
「……金ちゃんのセリフにその反応……先輩ら、ちょっと一度死んできてください」


「……あはは!向こうはわかりやすいぐらいの反応してるねー」
「「…………っ」」
「あれ?日吉と宍戸も見ちゃったわけ?やるねー」

「……で、顔赤らめてるアンタも見たわけね」
「お、俺が何を見たって?!ふざけんなよ、このクソ女!!」
「亜久津きゅんったら、むっつりスケベやね!」
「おい、そこの眼鏡オカマも黙れ」

「んー、よぉ見えんかったばい。ちょっと脱いでもろう方がよかかもしれん。小石川もそう思わん?」
「千歳、直球でもそれはただの変態やからな……」
「流石にその発言はワシも引くで……」

「ちなみに、俺はバッチリ目撃済みやわ」
「クソクソ侑士!お前、ちょっと記憶失ってこいよ!」
「マジマジニヤケ顔が腹立つCー!」
「……なんや悔しいからって辛辣やない?」

「ったく、樺地!夢野に合うTシャツでも買ってこい!」
「ウス!」

長太郎くんを眺めている時に聞こえたそんな会話の数々は、全力で聞こえなかったことにした。

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