風雲児跡部様
「ねーちゃんねーちゃん、今からどこ行くんー?」
「そうだねぇ。なんか仁さんの顔みてたら恐竜エリアもいいかなって」
「あぁ?何言ってんだ、こらっ」

ぎゅーっと私の腕に絡みついてくれている可愛い金ちゃんに答えていたら、後ろから仁さんの怒鳴り声が聞こえた。だが私は無視する。
それに石田さんと小石川さんにどこのエリアに次行きましょうかって尋ねたら、せっかく高いお金を払ったから乗り物を乗りに行こうと答えてくださった。確かにアトラクションの待ち時間も長いので、早くしないと乗り物制覇できない。

「……って、二時間も待つんか……」

謙也さんがはぁっと項垂れる。ハリーポッターのエリアの時もそうだったが、謙也さんは本当に待つのが嫌みたいだった。
……どうでもいいが謙也さんは、デートで遊園地に来ては行けない人だと思う。

「しゃーないやろ。ほら早うしな──」
「「きゃぁぁぁあっ!」」

その時である。
小石川さんの台詞が聞こえなくなってしまうぐらい女性の悲鳴が上がった。

「なんやろ?何かイベントでもあるんやろか?」

金ちゃんが私を見て満面の笑みを向けてくれる。
なんかすっごく可愛くて「なんだろうね〜」と能天気に答えてしまったことを後悔するのはその数秒後……

「よぉ、夢野」

私の目には幻覚が見えた。
んんっと何度も目を擦ったが目の前に物凄いドヤ顔した跡部様が見える。
派手な私服を身にまとい、後ろに氷帝レギュラー全員を引き連れて、周囲の女性たちの視線を奪っているという妄想もいいところの幻覚だ。

「……いや詩織、それは苦しい」
「そうよ、詩織ちゃん!アタシにもハッキリ見えるでぇ☆」

流夏ちゃんと小春お姉様の声に魂が口から飛び出そうになる。

「あ、跡部くんに、氷帝の……ひ、久しぶり?やなぁ!」
「あぁ、白石、元気だったか?うちの夢野が世話になったな」

「てか、侑士っなんでおんねん!」
「そんなん邪魔しに来たに決まっとるやろ」

白石さんと跡部様の会話。そして謙也さんと忍足先輩の会話に夢でないとハッキリ理解した。
そして朝の忍足先輩のメッセージの意味はこれだったのかと納得する。

「詩織ちゃん〜、魔法使いの格好可愛いC〜!あ、三船さんも似合ってるよーっ!」
「じ、ジロー先輩ありがとうございます」

金ちゃんが掴んでいない方の腕にジロー先輩の腕が絡められた。流夏ちゃんも「どーも」と答えていたが呆れたようにため息をついている。

「……もしかして若くんも長太郎くんも一緒に遊んでくれるの?」

もう諦めて若くんと長太郎くんに首を傾げたら、二人とも一度顔を見合わせていた。

「……あぁ。そのつもりだが」
「詩織ちゃんと遊びたいから来たんだよ」

目線を外して頷いた若くんと笑顔で頷いてくれた長太郎くんは対照的だったけど、ムズムズするぐらい照れ臭くなる。

「はぁ……なんでこないなことに……」

後ろで光くんが頭を抱えたと同時に、ちーちゃんが「あ」と小さく声を上げた。

「跡部さんたちが合流して儲かり時だったけど、私はこれで失礼するわ」
「え?え?!」

思わず驚いて目をぱちぱちさせたら、ちーちゃんが恥ずかしそうに頬を赤らめる。

「さっきちょっとした悪戯で、白石さんと千歳さんに挟まれてる写真をメッセージに送ったら、嫉妬したみたいで。彼が迎えに来てくれているらしいの。だから、私はこれで失礼するわ」

え、ちーちゃん彼氏いたの?!とか驚愕の事実で頭の中がいっぱいだったが、流夏ちゃんが彼氏何歳の人?って聞いたら「大学生なの」とナチュラルに答えていたちーちゃんにまた瞠目した。
今まで一緒に回っていた四天宝寺の皆さんも私と同じような心境らしく、結果通りでちーちゃんは大人っぽい雰囲気してたのかという空気になる。
しかし、大学何年生にもよるが、彼氏さん、ちょっと間違えると犯罪にならないだろうか。

「ま、また、東京で!」
「ええ、またね!詩織も彼氏が出来たらダブルデートでもしましょう」

そうニヤリと不敵に笑ったちーちゃんは、明らかに別の意味を含めた言い方をしていた。
出来れば、この人たちがいないところで言って欲しかったと胸がドキドキする。

「……で?乗り物に乗るのか乗らねーのか」

ぼんやりと小さくなって人混みに消えていくちーちゃんを見送っていたら、仁さんが私の頭を掴んだ。

「乗ります、乗りますけど……」

四天宝寺の皆さんを見回してから氷帝の皆さんを見回す。滝先輩がニコニコと跡部様の背中を押していた。

「ったく、俺様にかかれば今からでもアトラクション制覇できるぜ!」

ばっと片手を上げた跡部様の手には、何かが。

「そ、それは──」
「一生俺らにはお目にかかることはないと思っとった……」
「「ロイヤル・スタジオ・パス!!」」
「──の、景吾くんVIP版だよー」
「ウスっ」
「いやぁぁん、跡部キュン抱いてぇー!」
「小春ぅ、浮気かぁー!いやでもこれは俺も抱かれるしかないっ……!」

神々しく光るそれに、謙也さんや小春お姉様、一氏さんがははーっとその場で平伏する。

「クソクソ詩織っ、なんでそんな白目剥いてんだよ!」
「あぁ、激ダサというか激怖なんだが」

岳人先輩と宍戸先輩のそんなセリフを聞きながら、もう跡部様にかかればなんでもアリだなと思ったのだった。

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