バタービールを吹き出した
白石さんが何故か購入してくださった私の杖で交代に魔法を使っている流夏ちゃんとちーちゃんと金ちゃんの姿を眺める。

というか、杖買う時、私悩み過ぎちゃったのかな。結局買うつもりだったんだけど、その瞬間には白石さんがお金支払ってて。
その後に言われたクルーのお姉さんの台詞とか恥ずかしかった。
というか、意識しないように努めているんだけども、謙也さんとか光くんとか白石さんが好意をかけてくれてて無理だ。
からかわれても、イケメン度をキラキラされても、平然と受け流せるような精神になりたい。

ベンチに腰かけ、ごくごくと甘ったるいフローズンバタービールを飲んでいたら、隣に腰掛けた光くんが「詩織」と私の名前を呼んだ。

「……何?」

バタービールのお持ち帰りできる容器から口を離して顔を横に向けたら、パシャリと写真を撮られる。

「ほんまに髭みたいになるんやな」
「あ、本当だ!」

劇中でもやっていたけど、本当だった。
白い泡が口の周りについてお髭みたいになってる。
間抜けな自分の顔が面白くて、光くんのスマホの画面をまじまじと覗き込んだ。

「……警戒解いてくれたん?」
「……え」

ちょっとだけ切なそうな声音が聞こえて、顔を上げたら光くんの顔がすぐ側にあることに気づく。
いつの間にかこんな近くまで寄ってしまったのかと、恥ずかしくなるのと焦るのと同時に、光くんの瞳に魅入ってしまったかのように動けなかった。

……やばい。光くんの息遣いが聞こえて、つい唇に目がいってしまう。

「……詩織」

名前を呼んだ光くんの表情がどことなく色っぽくてどうしようかと思った。

「あのな──」
「はいはいはいっ!俺の小春も疲れてるからこっち座らせたってな!」
「ご、ごめんなぁ!光きゅんっ」
「──……はぁ……」

ズバッと私と光くんの間に腕を伸ばして割り込んで来たのは一氏さんだった。小春お姉様を私と光くんの間に座らせると「小春ぅ、喉とか乾いてないかぁ?!」と小春お姉様の脚を撫でる。
小春お姉様は光くんに申し訳なさそうにしていたが、私としては本当に助かった。

「これ、俺も飲んでよか?」

それから千歳さんが私の肩に顎を乗せて私の半分残ってたバタービールを取り上げる。
半分残っているとはいえ、甘さに食傷気味になっていたので、千歳さんに残りを飲んでもらうことにした。

「な、なななんで夢野さんのを飲むんや!」
「えー、なんね?俺が夢野さんの飲もごたっただけやし」
「ナチュラルに、か、間接キスやないか!!」

頭の後ろで千歳さんと謙也さんがそんな会話をしていたが、やはりそういう発想になる謙也さんは相変わらず思春期男子的で大変可愛らしいと思う。

「……あ」

それから静かに皆のことを見守っている石田さんと小石川さんを視界に入れて、しまったと思った。

千歳さんが「甘か〜……」と舌を出したのをクスっとしながら、空になった容器を受け取って石田さんと小石川さんのところに駆け寄る。

「すみません、私の趣味に付き合ってもらって!これ、すぐに洗って来ますので、そしたら、他のエリアにも行きましょう!」
「いや、自分だけやないやろ。三船さんたちも楽しそうやし……」
「うむ。ワシらのことはあまり気にせんでええで」

小石川さんと石田さんは本当に中学生なのだろうか。親目線にも見える発言にちょっと申し訳なさでいっぱいになった。

「それ洗ってくるんやったら、俺が行ったろか?」

そしたら後ろから白石さんに優しく声をかけられる。杖まで購入していただいたのに、容器まで洗いに行かせるわけには行かない。

「いえいえいえ!もう本当に大丈夫ですから!」

超高速で首を横にブンブンっと振ってから、お手洗い前の水場に行く前に流夏ちゃんに声をかける。

「わかった!確かにここのエリアだけで午前中終わっちゃいそうだし。いや私はいいんだけど、あの人たちが可哀想だもんね」

午前中どころか、一日中いても幸せそうな顔をしている流夏ちゃんだったが、壁側のベンチのところに固まっている四天宝寺の皆さんを見て仕方がないと肩を竦めた。

「じゃあ洗ってくるねっ」
「はいよー」
「ねーちゃん、いってらっしゃいやでー」

流夏ちゃんの後に元気な金ちゃんの声が響いて、ちょっと恥ずかしかった。
何分金ちゃんは声が大きいのだ。めっちゃ目立つのだから、仕方がない。





「あら、やっぱり!詩織ちゃん!!」
「え?!」

そして水場で私は素っ頓狂な声を挙げることとなった。
容器を洗っていたら声をかけられて、顔を上げたら目の前に優紀ちゃんがコロコロと笑っていたのでおる。
そう、あの仁さんのお母さんである優紀ちゃんである。

「ど、どうしてここに……?!」

「あらやだ、それはこっちの台詞よぉ。私は商店街のくじ引きで宿泊券と優待券がペアで当たったから♪」

「そ、そうなんですね!……って、ペア……?」

いや、まさか……

その時、ゆらりと優紀ちゃんの後ろで人影が揺れた。

「そうそう、仁くんも一緒なのよー」
「……けっ。余計なこと言うんじゃねぇよ、クソババア……」
「あ!誰がクソババアなのよ!」

……やはりか。
クソババアとか言いつつお母さんのこと大好きで放って置けないんですよね。だからここまで着いてきたんですよね。

「仁さん、こんにちはー」

「……お、おう。だけどな、べ、べつにこのババアが心配だったわけじゃねえからなっ!!」

私の考えが口から漏れ出ていたのであろう。ギロリと眼光鋭く睨まれてしまったが、もはや仁さんのイメージがお母さん想いで固定されてしまっているので凄まれてもノーダメージである。

「……ちっ!」

「あ、そうだ!仁くん、せっかく詩織ちゃんに運命的に会えたんだから、デートしたらどう?私は一人の方がナンパされるかもしれないしー」

「はぁ?!」
「どうしたらその答えに?!」

思わず仁さんと二人同時に声を出してしまった。優紀ちゃんはそれすら「ほらもう息ピッタリ〜」とにこやかに笑われる。
いやいやいや。
優紀ちゃんは天然過ぎる。

「あ、あの、でも私一人じゃありませんし。流夏ちゃんやその他の皆さんも──」
「ええ?!仁くんのこと嫌い?!」
「──き、嫌いじゃないですよ?!いやでもだから、他にもメンバーが」
「じゃあ仁くんも混ぜてあげてね!」

ウインクしてニコニコとその場を去っていった優紀ちゃんを見送る。
隣で舌打ちしていた仁さんは、これからどうするだろうか。

顔を上げて見つめたら「けっ!」と舌打ちされてそっぽを向かれてしまった。

……でも歩を進めたら、斜め後ろを静かに着いてきてくださるみたいで、あぁ……一緒に遊んでくださるのかと、目を見開くぐらい驚いたのだった。

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