魔法世界やから
「ひゃー!!めっちゃくちゃ凄かったなぁ!!ぐるんぐるんしてガオーって!!」

「すごかったねっ!」

「この世界の疑似体験と、映像でもセブルスが見れただけで私は幸せ……」

室内型の椅子に座るジェットコースターみたいなんに乗るために、えらく並んだけど(謙也が途中ほんまにイライラしとった)乗り終わって出てきた時は皆満足そうや。
金ちゃんは大興奮しとるし、それに頷いている夢野さんはローブ姿なんもあっていつもより可愛かったし、恍惚の表情を浮かべている三船さんは珍しすぎて三度見くらいしてもうた。

「ちょ、俺は気持ち悪い……」
「大丈夫か、小石川はん」
「確かに激しか動きやったもんねー」

ケン坊が若干ふらふらしていて、銀と千歳が背中を撫でている。

「取り敢えずここ並びながら休憩にしましょう」

三船さんが指さしたのは魔法の杖が売っている店。
前に妹と来たことあったけど、ここになんかあったやろうかと首を捻った。

「……参加者の中から選ばれた人が魔法の杖を選んでもらえるそうですよ」

「あ、そうなんや。教えてくれておおきに」

パンフレットを眺めながら答えてくれた篠山さんにお礼を言ったら「ふふ」と意味深に笑われる。

「それにしても……白石さんは思いのほか冷静なんですね」

「……え?」

「いえ……」とだけ答えてから視線を夢野さんがおる前方に向けた篠山さんは、俺の気持ちまで見透かしてるようやった。

夢野さんはユウジと小春と何か話しているところやった。そこに財前が加わって、また賑やかになっとる。

「金太郎はん、そこのロープは触ったらあかんで」

銀の声に金ちゃんが堪忍やーと謝る声が響いて、謙也の落ち着きない動きに三船さんが「今日ぐらいスピード落としてください」と問答無用で後頭部を叩いていた。

「……冷静というか」

俺はただあんまり急いで失敗した無いというか。

「……ただ、臆病なんやろうな」

謙也や財前みたいに態度に出してしまった時、本人に気付かれてまうんが怖いんやと思う。
謙也がヘタレや言われてるけど、実際アイツはヘタレやない。すぐに行動に起こせるやつやし、こうと決めたら男らしく決断するやつなんや。

……完璧を求めすぎて行動に移せん今の俺こそ、ヘタレなんやろうなと思った。

独り言みたいに呟いたセリフを、隣の篠山さんがどう聞いとるかは分からへんけど、流石にもうちょっと行動しよかと思ったんは、妹の発破があったからかもしれん。






その後、魔法の杖を選んでもらえる人間に、夢野さんが選ばれて。
まぁ流石にこの人数やねんから、俺らから選ばれる確率高いやろって思っとったとこやったから、ちょっと笑ってまう。

明らかに目立つ千歳や銀、ぴょんぴよん跳ねてる金ちゃんが選ばれへんかったんは、向こうのクルーさんのやりやすさを重視したんやろうか。

「わわっ!」

恥ずかしそうに、言われるがまま呪文を口にして杖を振るう夢野さんやったけど、中盤くらいからすごく楽しそうで。
小春やユウジ、金ちゃんの大きすぎるやろっつー応援やツッコミが飛んだりしとったのは他の人らにもウケとった。


「…………購入」

そして流石我が大阪のテーマパーク。
選ばれた言うて特別な貴方だけの杖言われても、どうやら貰えるわけやなくて、購入らしい。

うーんうーんと悩む夢野さんの顔がえらく可愛ええなぁと眺めてまう。

「詩織、三船のやつ、なんやスネイプの杖買っとるで」

財前のセリフに三船さんを見たら、ウキウキとした顔でレジに並んどるから、また二度見してしまった。上機嫌の三船さんには悪いけど、ちょっといやだいぶ……キャラ違わへん?

「んー、よし、私、買いま──」
「これでお願いします」

悩んどる夢野さんの前でニコニコしていたクルーのお姉さんに五千円札を手渡した。

「ええ?!」

財布をパンダリュックから取り出そうとしていた夢野さんは驚いたように叫ぶ。
やけど、もう既にクルーさんは俺からお金を受け取って杖の箱を紙袋に入れて夢野さんに手渡そうとしていた。慌ててそれを受け取りながらまた俺を見上げとる夢野さんに「プレゼントさせてな」と片目を閉じたら、途端に俺から目線を外して下に俯く。

……流石にウインクはやり過ぎたやろうかとか焦った。

「ふふ、優しい彼氏さんですね〜。今日はおめでとうございました!」

そんなセリフを吐いたクルーさんからお釣りを受け取って、店を出る。既に店の出入口付近に三船さんたちがおった。

「……あ、ありがとうございました!あの、でもっ、昼食代か何かは私が出しますからっ」

後ろから着いてきていた夢野さんが、俺の服を引っ張ってそう捻り出すような声で頭を下げる。顔を上げたら、ほんのりと赤く頬が染っていて、顔が死ぬほど熱くなってた俺も同じような感じなんやろうなと思った。

「……そんなんされたら、また別の何かプレゼントしなあかんやん」
「え、ええー……」

困ったように笑う夢野さんに笑ってる俺も困った顔しとるんやろうなと考えたところで、背中をグッと押される。
振り向いたら不機嫌極まりない財前やった。

「……謙也さんと言い、白石部長まで……、先輩ら何しとんねん」

ボソリと吐き出すように呟かれた台詞は、夢野さんの耳には届かなかったらしい。

「詩織の杖、ここで呪文言いながら振ったら、魔法使えるって!」
「やってみて欲しか!」
「夢野さん、こっちやで!」
「ねーちゃん、はよはよー!」

三船さんと千歳、謙也、金ちゃんに呼ばれて駆けていく夢野さんの後ろ姿を眺めながら、隣で舌打ちした財前の額にデコピンしたった。

「自分に負けてられへんしな」

そろそろ変態の地位から下りさせてもらうで。と続けたら、夢野さんが魔法で真夏に雪を降らせとった。

69/140
/bkm/back/top/
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -