好きな映画にカッコつけて
白石の妹と別れて、それぞれチケットを購入して入るかと小石川が言ったんやけど、俺は並ぶんも待つんも嫌いやから前日にネットで購入して、QRコード見せるだけやわって言ったら、白石や財前も、それから夢野さんたち女子三人もそうやったらしく、取り敢えず二手に分かれる事になった。

先に入ったメンバーでポップコーン買おうかってなったんやけど、全員でいかんでもええやろってことで、ただ今夢野さんと篠山さんと三人で、ポップコーンの列に並んどる三船さんと白石と財前を眺める。


「あ、そういえば、謙也さんってスピードの映画好きなんですよね?」

甘いキャラメルのような匂いがゲートをくぐってからずっと漂ってて、それが夢野さんの言葉と重なって余計甘く感じた。
それは待ち合わせ場所で夢野さんに好意的なセリフを吐かれたからか、余計やった。

なんで俺の好きな映画知っとんねんやろって思いつつ、財前辺りにでも聞いたんやろうかと考え「そやな、一作目はめっちゃ好きやねん」と答える。

「二作目は好きじゃなかったんですね?」

「そやねん。まぁまず一作目でな、あんな燃え上がるような恋愛から恋人になったのに、二作目では別れとんのやで?この段階でなんや見る気なくすっちゅー話やろ」

「確か主演のキアヌ・リーブスさんが降板したからそうなったんでしたっけ」

「ちゅーか、その時点で全く別の恋人で作ったらよかったんや!って……」

思わず熱が入ったところで、ハッとする。うわぁ力説して俺恥ずかしいかもしれへん。
夢野さんの隣でカメラいじりながらこのやり取りを聞いてた篠山さんの口角が上がったような気もした。

「……スピードの二人って吊り橋効果だったから別れたみたいな理由でしたもんね」

「あ、あの台詞はさらに蛇足や!」

これ以上熱く語らんようにしようと思ったところで、また夢野さんが続けたから、つい大声を張り上げてしまった。

「い、いや……ああいう恋愛に憧れとる訳やなくて……ちゅーか、前も言ったけど、俺の夢野さんへの気持ちは吊り橋効果やないし……」

「……っ」

恥ずかしい思うて、続けた台詞はまた自分でも斜め方向の場所で。
せやけど、その瞬間にブワッと効果音が聞こえてしまうぐらい、隣の夢野さんの顔面が真っ赤になったから、そっちにビックリしてもうた。

……侑士が電話かけてきたタコパの夜の時は、声だけやったから夢野さんにこない意識されとるとは思われへんかったけど、やはりあの遭難サバイバル合宿ん時の台詞がまだ効いとるような気がする。

俺が目を見開いたんとほぼ同時に篠山さんも目を見開いとった。

「……謙也さん、あの、私、……好きか嫌いかって言われたら、謙也さんのことは好きです。でもそれは他の皆さんと同じぐらい好きだし……な、なんて言うか、ちーちゃんのことも本当に大好きですしっっ」

「あら詩織ありがとう」

ぎゅっと逃げるように篠山さんに縋り付くように抱き着いた夢野さんは、真っ赤な顔で必死やった。そんな夢野さんの肩を擦りながら、篠山さんが「……つまり、全員チャンスがあるわけですね」とニコリと微笑む。

振られたんとちゃうん?と首を傾げたら篠山さんは目を細めて「それは気持ちの持ちようじゃないですか?」小さく呟いた。


「……何しとるんすか」

そんなやり取りをしていたら、息切れしとる財前がやってくる。
手に何も持ってない様子に、自分、ポップコーンどないしてんと思ったら、三船さんと白石がやって来て「財前、会計の時に急に走り出すなや」とため息をついていた。

「せやから謙也さんは詩織に何したんすか」
「いや俺は──」
「謙也さんは何もしてないよっ、むしろしたのは昨日の光くんの方じゃないか!……っは?!」

俺に対してごっつ睨んできとる財前に言葉を続けようとしたところで、夢野さんが盛大な独り言を口にした。

口を抑えてもごもごと何か焦っている夢野さんに財前が薄く笑う。

「え?」と眉根を寄せた白石に俺も財前が何したんか気になり始めた。
せやけどすぐに千歳たちが合流して、三船さんが「取り敢えずハリーエリアにダッシュしないと」と手を打って、全員でエリアを移動する事になった。

……気にならんことはなかったんやけど、もう夢野さんの百面相がすごいことになっとったので、それ以上何も言う気になられへん。

当面のアレとして、篠山さんのセリフに諦めへんとこっと希望を抱くのだった。

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