その時、ピーンっとウチの直感が訴えてきた。
これは……明日、デートなんやなと。
ウチは白石友香里。
ピッチピチの十三歳。
ウチには、蔵ノ介っちゅー変わった兄がおるんやけど、顔はかっこええし、身長やって高いし、真面目やし、テニス部部長やし。
パッと見はホント自慢の兄で文句すらつけられへん〜ってなるとこやねんけど、これがなぁ。実はかなりの厨二病持ちなんよ。
せやかて、いつからか年がら年中左手に包帯巻いとるし、口癖が「エクスタシー」やし、今年は突然カブリエルっちゅーカブトムシを恋人か!!ってツッコミたいぐらい可愛がっとるし。
なんやイケメンやのに色々残念やねん。
まぁそれでも連れ回したいほど自慢の兄やけど。
「クーちゃん!!なんやの、この部屋の散らかりようは!!」
そして帰ってきてクーちゃんの部屋を覗いたら、エラいことになっとったから、思わず怒鳴ってもうた。
「あ……すまんすまん。ちょっと明日出掛けるから、服選んでたんやけど……」
「は?」
アンタは乙女か。
ウチの頭の中でそんなツッコミが漏れたが、そんなどうでもええ事より、今は重要なことがあった。
「……明日どこ行くん?」
「え!あー……ど、どこやったかなぁ……」
白々しく明後日の方向に目線を泳がせて言ったクーちゃんにイラッとする。
「その顔シバいたろか」
「ええ?!」
反抗期なん?って訳分からんこと言ってきたから、取り敢えず一度本気で背中をどついた。
それでもどうしても言葉を濁して詳細を話そうとしないクーちゃんにどうしたものかと頭を捻る。
そして捻った先に、透明なケースに入っとるカブリエルと目が合った気がした。
「……クーちゃん、カブリエルの命が惜しかったら洗いざらい吐いた方がええで……」
低い声音でそう紡げば、ビクゥっとアホみたいに身を飛び跳ねさせて、ガバァッとカブリエルの入ったケースを抱きしめよる。
「そ、それだけはあかん!!絶対にあかん!!カブリエルだけはっ!あかんで!!」
「せやから、はよ」
詳細を吐け。とエアコンのリモコン片手に微笑んだ。
「……あ、明日はほらテーマパークに……」
「誰とよ」
「謙也たちと……」
涙目でカブリエルのケースを抱きながら、またクーちゃんの目線が泳いだところを見逃さない。
「嘘やな」
ピッと冷房のスイッチを入れたところで「あああ、ちゃうねん!ほんまに謙也たちと、で!それから、東京から来た夢野さんたちもおるんやっ」と勢いよく吐き出した。
「夢野さん?」
知らない名前に首を傾げれば「ほ、他にも夢野さんの友人の女の子もおんねんで!ほ、ほら、みんなで遊びに行くだけやし」と続けるクーちゃんに思わず鼻で笑ってまう。
どうやら東京から来た女の子が数人いて、あとのメンバーは四天宝寺テニス部のいつもの面子らしい。
ウチは冷房を消してからニヤリとほくそ笑む。
「明日はウチも連れてって♪」
「そ、そそれはあかん!」
「……まぁ、そうやろな。せやから、ウチはゲート前のとこまででええから!その夢野さん、会うてみたいし」
ニヤァッと笑ってから、青ざめたクーちゃんに「服選び手伝ってやんで?」と続けたら「い、入口までやからな?!兄ちゃん、お前を連れて行けるほど金ないからな?!」と念押しされる。
……まぁ目的は反応からクーちゃんが惚れてるらしい相手を見たいだけやし。
メンバー全員でその東京から来た子とテーマパークってところも引っ掛かるから、確認したいだけなんよね。
「夢野さんが物欲しそうにしとったら、男としてプレゼントしたらなあかんやろうしな。うんうん、わかっとるよー」
「だ、だから、な、何が!」
必死に否定しとるとこ悪いけども、その真っ赤な顔で言われても説得力ないわ。
兄の新しい一面がちょっと新鮮な夜だった。
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