静寂に喧騒を求める
「ひよCー!ひよCー!送られてきた?!」

部室入ってきて開口一番それか。
しかも主語が抜けている。
本当にこの人は一体何を考えて生きているんだろうか。

「一体何の話ですか」

はぁっと態とらしくため息をついて、ブンブン両腕振っている芥川さんを冷たい目で見つめる。
午後練習の始まりから、何を興奮しているんだか。

「だーかーらー!!詩織ちゃんからの写真!」
「……三船さんとのやつやろ?」

俺が答える前に、ロッカーを閉じて忍足さんが答えた。
あぁ、例の三船が陸上大会で三位に入賞した写真のことか。……あいつ、全員に送るならグループのとこに貼れよ。まったく……と息を吐き出したところで、鳳と向日さんが「へぇ!そうなんだ!」「入賞したのか!あのでかいヤツ!」と続けたのを見て、全員に送ってないのか……と気づいた。

どうやら、本日夢野とメッセージをやり取りしていた芥川さんと忍足さんのみに送っていたらしい。それから……メッセージを送った訳でもない俺と。

「……ちっ」

緩む口元に力を込めるよう舌打ちして、その後額をタオルで拭う振りをして顔を覆った。

……こんなことで嬉しがる自分は恥ずかしいが、だがこの優越感はなかなかなものだ。

「あぁ、大阪行くって言ってたもんね。昨日からとは知らなかったや」

「通りで最近静かだと思ったぜ、なぁ樺地」

「……ウス」

滝さんと跡部さんも初耳だと言わんばかりにそう言って、跡部さんに頷いた樺地は妙に寂しそうに見えた。

「んじゃ、ランニング行こうぜ!夢野の友人に負けてらんねぇだろ。俺たちは全国優勝すんだからな!」
「宍戸さん……!」

「宍戸の言う通りだ。関東大会の屈辱を返さねぇとな」

普段となんら変わらないように見える宍戸さんだが、わざわざ三船に対抗するようなセリフをつけることに違和感があった。宍戸さんを尊敬の眼差しで見つめすぎている鳳は普段通りだが。
パチンっと指を鳴らした跡部さんに従って部室を後にする。

関東大会の初の公式戦では、越前のやつに負けてしまったからな。もっと練習しないといけない。あいつの前で無様に負けたくないのだ。


「……日吉、そう言えば自分知らんと思うから伝えとくけど、山吹の室町くん……一日だけ詩織ちゃんについて昨日大阪行ってたみたいやで。あと、向こうですぐに財前くんにも会ってたみたいやし」

「……それを俺に伝えて、どうしろと?」

ランニングが終わり、筋トレのセットが終わった頃、水飲み場で頭ごと水を浴びていたら、忍足さんが不意にそんなことを言ってきた。

俺を見ている瞳がすっと細まって、何やら癇に障る。

「……そやなぁ。……敵同士やけど置いてかれたもん同士でもあるし、情報共有しとこと思ってな」

敵同士。
その台詞に忍足さんの夢野に対しての最近の言動は本気である証拠なのかと思う。
あのプール後から、夢野とは毎日メッセージも送りあっているようだし。

「ふん……、それが敵に塩を送ることになっても知りませんが」

「ふっ、言うやん。……あー……でも、明日大阪のテーマパークに遊びに行くんは流石に知らんやろ?四天宝寺のメンバー全員らしいけど……不安やわ」

「…………は?」

忍足さんが至極残念そうに肩を竦める。

「二人っきりやったら普通にデート場所やし、そうでなくとも、詩織ちゃんと遊びに行けんの羨ましいと思わん?」

「……まぁ──」
「羨ましくて震えます、と日吉は唇を噛み締める」
「──滝さん、訳分からないナレーションつけるの、辞めてもらってもいいですか」

パシャリと写真を撮られる音がした。
未だに滴っている水滴を拭いながら、キッとふざけたように笑っている滝さんを睨みつける。

「日吉と忍足の憂いを含む写真どうもありがとう。このまま夢野さんに送信っと」
「ちょ、何送ってるんですか!」
「自分、勝手に何しとんねん」

ケラケラと愉快そうに笑っていた滝さんだったが、不意にその表情が真剣なものになる。

「……実は俺からも情報提供。今さっき三船さんから届いたこの写真……財前くんの抜け駆け──」

滝さんのスマホ画面に表示された写真に忍足さんと二人同時に一歩足を踏み込んだ。

「──ふふ、素直に俺の話を聞いてくれるみたいだね」

遠目ではあるが、夕陽に照らされる観覧車の中には夢野と財前二人っきりだ。異様に二人の距離が近いのもイライラする。

「……で、その話ってなんやの?」

「明日も朝から俺らは練習漬けではあるけれど、学校の都合で午後には解散予定でしょ」

「新幹線を取る金はありませんし、時間もないですよ。大阪までどれくらいかかると思ってるんですか」

俺の台詞にクッと滝さんが喉を鳴らす。
どうやら俺が邪魔しにいく選択肢を口に出したのがウケたらしい。……くそ、恥だ。

「ふふ、二人とも。我らが氷帝テニス部の部長を誰だと思ってるの?」
「「!」」

俺と忍足さんは顔を見合せ、樺地と並んで歩いている跡部さんを見た。

「……アーン?なんだ、お前ら。なんつー間抜けな顔をしてやがる」

……下剋上したい相手に頼み事とは、情けないが。

頭の中で先刻の財前と夢野の姿に芽生えた何かの方がより強かった。


「……まぁその最強の武器の矛先が最終的にこっちを向く可能性があるのが辛いところだけどねー」

後ろでポツリと漏らした滝さんの台詞に、そんなことは初めからわかっている、と頷く。
跡部さんに対しての夢野の信頼感。そして最近の跡部さんの夢野を見る眼差しの変化も。

でもまずは──

「跡部、明日午前練習終わったら、大阪行かへん?」

忍足さんの提案に跡部さんが乗ってくることを強く願った。

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