大好きな親友の夏
朝早くから起きて、少しヴァイオリンの練習をして、ホテルの朝ごはんを食べたら、流夏ちゃんの応援をしに会場に向かった。

道中、昨日の光くんの行動を何度も考えたけど、やっぱりよくわからなかったので考えることを投げ出す。といっても、昨日から投げ出すことすら上手く出来なくて、おかげで寝不足である。
今度顔を合わせる時には何か仕返しをとも思ったが、顔を見たら恥ずかしくなるに違いない。ので、ちょっと距離を置こうと心に誓ったのだ。


陸上大会の会場はホテルから徒歩で行ける場所にあった。
午前中だというのに、眩しい太陽。
チリチリと焼け付くような肌の感触に、日焼け止め塗らなきゃと汗を拭う。
日焼け止めと白の日傘を取り出して、空いている席にそっと腰掛けた。

目の前ではパァンっと音ととも何人もの陸上選手が走っていく。

「あら詩織」

流夏ちゃんはもう少し後か。と思ったところで、不意に声をかけられた。
顔をあげれば、ちーちゃんだった。

「今さっきこっちに到着してそのまま来たとこなの」

「わぁ!始発?!」

もしかしたら撮影しに行くかもとは言っていたけど、まさかそんなタイトなスケジュールだったとは。複数の運動部を取材するには、体が足りないのではと思う。

「氷帝の陸上部はもうタイムが出たみたいね。三船さんはもうすぐかしら」

「うん」

ぎゅっと手を胸の辺りで握っていた。
自分が走る訳でもないのに、なんだか緊張する。

「……暑いわね」

ちーちゃんがペットボトルを取り出して、水分補給をしていた。
私も喉がカラカラだ。
まるでグラウンドにいる流夏ちゃんが乗り移っちゃったんじゃないかっていうぐらい、喉が渇く。

「……あ、そうだ!ちーちゃん明日の予定って……」
「明日は朝一で東京に戻るつもりだったけど、何かあるの?」
「……その、四天宝寺の人たちとテーマパークに……」
「あら!ふふ、予定変えようかしら?」
「わぁ!もし迷惑じゃなかったら嬉しい!!」

そんな会話をちーちゃんとしていたら、またパァンっと音が響く。同時にパシャパシャとちーちゃんがカメラを向けていた。


ドキドキと胸が高なる。
流夏ちゃんの順番だ。
流夏ちゃんの自己ベストよりも、今大会の最高記録は速い。
でも、きっと流夏ちゃんなら……っ



パァン……っ!




「……お、お疲れ様だよ!流夏ちゃんっ!!」

「はー、ホントに疲れたわマジで」

表彰式も終わって、流夏ちゃんの胸には銅色のメダルがぶら下がっている。

「三位おめでとう、流夏ちゃん!」

「うん、ありがと」

ニッと妙に男前に笑ってから、流夏ちゃんはクシャクシャと私の頭を撫でてくれた。

「入賞できるとは思ってなかったからびっくりよ、最後、滅茶苦茶詩織の間抜けな応援聞こえてさ、もう笑っちゃうよね」

「あぐぅ……」

情けなく唸る。
流夏ちゃんが言っているのは、最後に叫んだ「がんばれーぇっ!」って声がアホみたいに裏返ったことだ。しかもかなりの声量を出してしまって、ほとんどの人に鳥が絞め殺されているのかと思われたに違いない。

「よし!これで、明日は思いっきり遊べるわね!もちろん今から買い物にも行くけどっ」

ふんっと鼻息荒くなった流夏ちゃんにちーちゃんも誘ったことを伝える。
流夏ちゃんは実はハリーポッターの映画が大好きな人なので、実はすごく明日を楽しみにしているみたいだ。


「……ふふ、明日、どこかで財前光に復讐もしなきゃだしねぇ」

私も映画は好きだ。
だから、すごく楽しみだなーと意識を飛ばしていたので、最後流夏ちゃんがそんなことを呟いていただなんて気づかなかったのである。

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