碧の下で
「あー……癒されるぅ。一日中いれる……」

中央の大きなメイン水槽ば眺めながら、夢野さんなそんな事ば呟いていた。
巨躯ば揺らし、穏やかに泳ぐジンベイザメとマンタの姿に釘付けのようだ。

「まぁイルカん水槽よりかは人も少なかけん、見やすかね」

「イルカやラッコの混み具合半端なかったですもんねっ」

きししっと悪戯っ子のような笑みを浮かべた夢野さんだったが、視線はずっと水槽の中で。

はっきり言うと、少しおもろなか。
まったくこっちば向いてくれん彼女ん横顔ば見ながら、そっと息ば吐いた。

おもろなかんに、楽しそうな彼女ん横顔に文句が言えんくなったばい。

「詩織、こっちの水槽おもろいで」
「不思議と見ていて飽きないわよね」

鰯の群れがグルグルしている水槽ば眺めながら、財前と三船さんが悪そうにセリフを吐いた。
その様子に室町と夢野さんが顔ば見合わせてから、ふっと笑う。

「完全に捕食者視点だよね」
「わかるっ」

三船さんと財前に聞こえないように言葉を交わした二人だったが、どうやら聞こえたらしくそれぞれ頭ばグリグリされていた。



「あ、千歳さんはどの子がお気に入りですか?」

もう中央水槽の底にまで来たということは、そろそろ終わりが近いのだと思う。

「んー、色々面白か生物はいたばってん、そこまでお気に入りはおらんかな。ばってんフグはてっちりにしたら、美味しそうやった」

俺のセリフに夢野さんが吹き出す。

「確かにマグロさんとか美味しそうでした」

「やろ?」

その時ちょうど、妹のミユキより小さい小学生の軍団がワーッと走ってくる。

「っ」

財前と室町も夢野さんのことば気にして顔ば上げたようやったが、一番近くにいたんな俺やったけん、彼女が小学生たちにぶつかられないようにと内側に庇った。

「ありがとうございます、千歳さん……」

「何もなかばい」

「ったく、親はどこよ……野猿を集団で放つんじゃないっての」

ポンポンっと夢野さんの頭ば撫でたら、三船さんが鼻息荒くやって来た。
この子は、ほんなこつ口が悪かね。

「俺らもそろそろ先に進むか」
「そうだな。俺も帰りの時間があるし」

財前と室町のセリフに大きく頷いた夢野さんだったが、その瞬間ハッと慌てたような表情ば見せる。

「待って!小石川さんは?!」

「……はい、俺はここにおるんやで。……良かった。思い出してくれる人がいて」

恨めしそうに俺ば見てきた小石川に苦笑した。



それからその後は最後にクラゲコーナーがあって。
夢野さんはクラゲが好きなのか、目ばキラキラさせながら眺めていた。

薄暗い照明の下で、青や赤、黄色に光るクラゲたちに夢中になってる彼女の横顔ば観察する。

何度か財前に背中をバシバシ叩かれたけども、気にならんほど俺は夢野さんの横顔に夢中やった。
俺がずっと凝視しとることも気付いとらんそん横顔は、やっぱりむぞらしかて思うた。

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