憎たらしい増加
「んふふ、美味しかったねぇ〜」

デザートバイキングで取ってきた最後のひと口を放り込んでから、詩織はニコニコと頬に手を添えながら、幸せそうに笑っている。

視線は大きな窓ガラス向こうに広がる大阪の街や。
眼下の景色は大阪に住んどっても、そうそうお目にかかれるほどではない。流石に中学生男子が毎日のように来るような立地場所のレストランやないからな。

「……んで、この後どうするん?」
「この後はねー、流夏ちゃんと合流して海遊館です!」
「は?」

まだ口の中に広がる甘さの余韻に浸っているのか、幸せそうな顔のまま詩織は小石川副部長と顔を見合わせて頷き合う。

「元々、夢野さんと三船さんの観光案内を頼まれてたんや」
「流夏ちゃんは練習あるから、昼からってなってて」
「なんだ。初めから二人っきりじゃなかったんだ……」

ほっとしたような顔の室町にふんっと鼻を鳴らす。確かに詩織が男と二人で行動取ろうとすんのはおかしかったし、女子二人にいい所見せようとした副部長の背伸びした結果がこのレストランなら、納得出来た。

「それでなんで海遊館なん」
「行ったことがないから!動物園と迷ったんだけど……」

動物園に行ったら、光くんたちの学校にも寄ってみたくなっちゃうし。と続けた詩織を見て、危なかったなと息を吐き出した。
学校なんかに来られたら、先輩らと詩織が顔を合わせてまう。それは絶対におもろない。
現時点で小石川副部長に他部員には漏らしたらあかんと、口止めしてるとこやし。

「ほな、出発しよ」
「三船とは海遊館前で待ち合わせなのか?」

俺が立ち上がると、全員が反応して席を立った。室町が詩織に声をかければ、パンダリュックを背負いながらコクコクと何度も頷いていた。

……三船流夏か。
アイツ、苦手やねんなぁ。相反するというか、似たもの同士な匂いを感じてやりづらい。

ふぅーっともう一度溜息を吐いた。







「詩織、こっちよ!」
「流夏ちゃーん!!……って、ええええ」

透き通るような凛とした声が海遊館前で響く。
そして、その後に脳天気な詩織の声が馬鹿みたいに広場に響いた。
海遊館前の海の見える広場で寛いでいた家族連れなどに凝視される。

「せやけど、なんでおんねん千歳先輩」
「財前、相変わらずキツか。ばってん、俺は三船さんに呼ばれただけばい」

呼ばれた……って、いつの間に連絡取り合っててん。
ムッと三船に視線を向ければ、何やら勝ち誇ったかのような顔で俺を見ていた。
どうやら向こうも俺のことは気に入らないらしい。

同族嫌悪……。
虐めていいのは自分だけやとか思っとるタイプやろ。

「わぁ、見て見て可愛い!!」

海遊館のチケットに描かれた海の生物たちに心を踊らせて笑う詩織の無邪気さに、まぁええか。と口角を上げる。

……千歳先輩にバレてもうたら、もう後は時間の問題やな。とも考えながら。


「……って、室町何さり気に詩織とパンフレット見とんねん」
「え?!見ちゃダメなのかよ!」

この天然の伏兵も正直面倒なんやけどなぁ。

……海遊館なんて何年ぶりやろかと、ゲートを通る。さらに登っていくエスカレーターに千歳先輩が「あー俺、実は初めてばい」とか、呟いていた。

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