十次くんといっしょ!
「あぁああっ!本当にごめんなさいっ、そしてありがとうだよー!!」

半泣き状態で目の前の十次くんに謝って、それからお礼も口にした。

「いやいや……俺は大丈夫だから。それより、二席も取ってしまったのか……」

「当日キャンセルだと、金額の三十パーセントみたいだから、勿体ないけどキャンセルするよぉ……」

苦笑している十次くんをまともに見ることが出来ないまま、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

どうして東京駅でこんなやり取りをしているかと言うと、私が十次くんに大阪までの新幹線のチケットの買い方を聞いたのが始まりだった。

教わるがまま、ネット購入をしてみたのだが、私は選択数を間違えていたらしく、わからぬまま二席購入していたらしい。指定席も丁寧に二席連続確保である。席の選択画面で気づけばよかったのだが、馬鹿な私は気づいていなかった。
そりゃ新幹線代高いよね!二人分なんだもん!

「……んー……、もし詩織さえ良かったら、俺もついて行っていい、かな?あ、もちろん、チケット代は払うから!」

十次くんは、朝見送りにわざわざ東京駅まで来てくれたのだ。

「……って、え?で、でも、山吹も敗者復活戦で全国大会に出れるって……」

だから忙しい時期なのでは。
と、言葉を続けようとしたけど、十次くんの手がそっと私の頬に触れる。

「心配なんだ。その、今にも泣き出しそうだし……それに、飛行機とは違うけど、乗り物、そんなに好きじゃないんだろ……?顔が不安でいっぱいだぞ」

「十次くん……」

うっと言葉に詰まった。
同時に胸の中がぶわぁって温かくなる。
触れられた十次くんの指先は一瞬だったけど、妙にほっとする安心感があって。
困り顔だけど、決意したような、男の子って感じの十次くんの表情に思わずドッキリとしてしまった。

確かに、飛行機だけでなく、遭難した船のことも合わさって(実際は違ったけど)私は大型の乗り物に乗る時緊張するようになってる。それは事実だ。

だけど、全国大会も控えている十次くんに甘えてしまうのは違う気がする。

「でも──」
「今日は休息日だから。俺は夜までにはこっちに戻るし。明日からはまた練習する。……だから、俺も一緒に行かせて」
「──っ、十次くんっ」

真っ直ぐな瞳がサングラスの向こうに見えた。

自分の中の不安感、寂寥感が見透かされているような気がして恥ずかしくなる。

「うう、ずるいっ、十次くん、男前過ぎて鼻血出ちゃう」
「え?!だ、大丈夫か?え、いや、男前?!」

真っ赤になって両手で顔を覆ったら、十次くんがオロオロし始めた。傍から見たら別れ話を切り出されて泣いている女の子と泣かせてる男の子みたいに見えたんではないかと思って、後で反省した。

取り敢えず、付いてきてもらうのだから、新幹線代は私が出すよ!とこれだけは譲らないことにした。
出来れば帰りの新幹線代も出さなきゃ!と心の中で決意する。

「……でもあれだ。十次くんが付いてきてくれるとかすごく安心なので、お腹がすいてきちゃった」
「安心してくれるのはいいんだけど、今?!いや、ちょっと時間に余裕が無いから先に改札入ろう!車内販売も何かあるかもしれないからっ」

ぐうっとお腹の虫を鳴らしたら、十次くんはくしゃっとした困り笑顔で笑いながら、そっと私の手と自分の手を繋いで引っ張ってくれた。
しっかりとした男の子の手だった。

なんだか照れる気持ちもありながら、十次くんの頼りになる背中を見つめる。気恥しさに周りの音が聞こえない。

でも……本当にありがとう、とまた小さく呟いた。

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