別れ際に、君は
眉間に皺を寄せて苦悩の表情を浮かべていた手塚に、夢野が頭痛薬を渡した後、彼女はそのままの流れで俺に何かを手渡してきた。

「ん?……これは」

「あ、はい!あの、和太鼓の演奏者であるご夫婦の海外での活動を収めたDVDです!すごく素敵な演奏が色々入っているのでぜひにと」

「あぁ!ありがとう!」

あの方たちの演奏か!と俺は遠慮せずにDVDが入っているらしいDVDケースを受け取る。
夢野と初めて会うことになった和太鼓の演奏。あのご夫婦の演奏者の方のファンになった俺だったが、彼らの演奏をなかなか聞けずにいた。
公演のチケットはなかなか中学生の身としては手に入れにくい価格が多かったためだ。
だから、夢野の好意はとても嬉しかった。
思わずふっと口元が緩む。

「和太鼓、いいな!派手で!」

南の声に「あぁ、他の楽器と調和しててとても良かったぞ」と答えれば、頭痛薬を飲んで治まったのか、幾分か表情の落ち着いた手塚が「そうか」と頷いていた。

「よし、じゃあな!夢野」

「赤澤アニキも一郎くんもありがとうございました!」

「ははっ、気にするな!」
「うん、気にするところズレてるから!」

その後、赤澤と金田がそんなことを口に出しながら、元来た道をランニングで戻っていく。
俺と南、手塚も夢野に「では」と手を振ってからその場を去ることにした。

と、そこでふと気になったことが頭の中に過ぎったので、マンションの中に入ろうとしていた夢野へと振り向いて声を上げる。

「夢野!そういえばヴァイオリンのコンクールというのは?」

「明日が予選ですー!」

「そうか!がまだせ!!」

思わず熊本弁で頑張れと叫んでいた。

夢野は一瞬驚いていたようだったが、元気よく「はいっ」と返ってきて。
少し裏返ったような、緊張したようなそんな声に思わず笑ってしまう。

……あぁ、そうだ。
家に帰ったら、深司たちにも連絡して伝えよう。

夢野が手渡してくれたDVDケースをぎゅっと大切に抱えて、そんなことを思ったのだった。

……この胸の奥の温かさの意味は、今の俺には見当がつかない。
だけどとても心地よかった。

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