ドラマのワンシーン的な
「よし、声出せ金田!」
「は、はいっ!」

……うん。
これはあれだろうか。
ピーッと笛を鳴らしながら、私も激励の言葉を述べた方がいいのだろうか。

しかし、なんだろう……この状況。

南さんの派手な色合いの自転車のペダルを回しながら(乗る前にサドルの高さなどを調節してもらった)後ろから走ってついてくる三人へと視線を向けてみる。

「危ないぞー」

赤澤アニキに怒られたのでバッと前を向いた。
確かに電柱が近づいてきていて「ふぉっ!」とかちょっと低い声出して避けたら、後ろで南さんに笑われてしまう。
いやこれ、絶対赤澤アニキも一郎くんも笑いこらえてるよね?!なんかそんな気がする!

「い、いや、笑ってない……ぞっ」
「あ、赤澤部長、声が震えてま……っ」
「お前ら二人とも笑ってるじゃないか」

南さんのツッコミがなくても、私が同じセリフを叫んだに違いない。
もういつも通り口から声が出てたとかはどうでもよくて、ちょっと恥ずかしいのと悔しいのとで、立ち上がってペダルを踏み込み勢いよく回すことにした。

「「あっ!」」

綺麗に重なった声がしたけど、ええい!知るもんか!!
この自転車南さんのやつの気もするけど、それも知らん!!
私は風になる!

そして──

「リズムに乗るぜ!!」

誰かの決め台詞を吐いて、一気に加速した。
下り坂だった事もあってスピードは一気に上がる。これにはきっと浪速のスピードスターの謙也さんもびっくりなのでは!とか考えていた。

「!」

目の前に野良猫の姿が。
脳がそれを理解した時にはもう遅くて。
反射的にブレーキを必死にかけて、ハンドルを右に旋回。

だめだめだめっ!

猫はきっと私よりも反射神経がいいから、逃げられるだろう。
だけど、人よりも運動音痴な私は普通に勢いよく転ぶ!

ぎゅっと瞼を閉じ、できれば腕…特に利き腕は守らなければと。
そして背中に背負ったままの、ヴァイオリンケースもどうか無事でと。
──強く祈った。

「……大丈夫か?」
「ふぅ……。いきなり飛び出してくるから驚いたぞ」

聞き覚えのある落ち着いた声。

掴まれている両肩の手はそれぞれ別の人のものだった。
恐る恐る顔をあげれば、そこに居たのは手塚さんと橘さんだった。

「え?!」

意外な組み合わせなこともあって驚いたし、よく止めてくださった!お二人は命の恩人です!とも叫びたかった。

「ハァハァ、夢野……大丈夫か?って」
「ん?手塚と橘じゃないか」
「…………また夢野さんは……」

息切れしてまで追いかけてくださって本当にすみません、南さん!
赤澤アニキはまた白い歯を見せて「久しぶりだな」とか笑ってるし。
偶然怖いよね!私も自分の遭遇率にビックリしてるから、ため息つかないでよ!頭抱えちゃダメだ、一郎くん!!

とりあえず、手塚さんが私を自転車から下ろして、その時ぎゅっと胸元の方へ引き寄せて、ふらつきはないか確認してくださったみたいなんですが、超いい匂いがした。

「手塚さん、すごく美味しそうな匂いしますね!!」

「……そうか」

普通に感想を声に出してから、よろめいたりはもうしないので、手塚さんの腕を離してもらう。

自転車のことと、恥ずかしさとかでスピード出してごめんなさいって謝ってから顔を上げたら、南さんと一郎くんに微妙な顔をされた。
赤澤アニキはぽんぽんっと頭を撫でてくださったけども。
隣にいた橘さんは何か難しそうな顔だ。

「……えっと、では!」

もう自宅のマンションまですぐそこだし、さようなら!と回れ右をしたら、パシッと左手を手塚さんに掴まれていた。

「へ?」

「いや……送っていこう」

少し困り顔になってから、手塚さんは一度大きく咳き込んでそう言った。

橘さんや南さん、赤澤アニキや一郎くんまでも大きく頷いたのを見て、え?私ってそんなに危なかっかしいの?と疑問が浮かぶ。

どれだけ抜けているように見えるんだろうかと、その日はその後ずっとキリッとした表情の練習をすることに決めたのだった。

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