「は、はいっ!赤澤部長!」
いつもと変わらない爽やかな笑顔で、俺の背中をバシバシッと叩く赤澤部長に元気よく返事をする。
ちょうど空は朱色が一番綺麗な時間帯だった。
アスファルトの道路上、微かに残った水溜まりに夕焼けが差し、本当に綺麗だ。
その上を二人乗りしている男女の自転車が通り抜け、パシャパシャと小さく水滴が跳ね、広がる波紋がまた美しくて──
「わぁ!一郎くん!赤澤アニキーっ!!こんにちはっ!いや……こんばんは?」
一際明るくどこか抜けたような声が聞こえたと同時に、その自転車が止まった。
「おお、本当だ。赤澤と金田じゃないか」
「夢野と南か。二人乗りはダメだぞ?」
ハンドルを握っていたのは、山吹の部長の南さんで。
そして赤澤部長は何も表情を変えず、さも当たり前のように2人と会話をし始めた。
い、いや!
そうじゃないでしょ?!
俺は、なんで一緒に仲良く自転車二人乗りしてるんですか?!とか。
というか、二人ってそんな仲良かったでしたっけ?!
いやでも二人とも見られても平然としているというか、むしろ通常運転なのはなんでですか?!と叫びたい気持ちでいっぱいだった。
先日、テニス部の二年生を下の名前やあだ名で呼び始めた夢野さんだし、特別な意味はまったくない二人乗りなのかもしれない。
「?一郎くん、ウンウン唸ってどうしたの?悩み事?あんまり深く考え込んでいると、禿げちゃうぞ!」
「うわっ!」
顔を上げたら目の前に夢野さんの顔があるもんだから、めちゃくちゃ驚いた。
てか、いつの間に自転車から降りたんだ!
「いやなんで南さんの自転車に二人乗り?!」
もうどうにでもなれ。
あまりにも気になりすぎて、思わず大声を出してしまう。
これには、赤澤部長も南さんも驚いたようだったし、少なからず「い、いやそれは……」と焦った南さんには、何かほっとした。
「ん?ばったりコンビニで出会った南さんに、私のヴァイオリンの先生が青春とやらを感じてしまって、南さんに自宅まで送ってやってくれという謎ミッションを投げつけてしまったためかな!」
「……あ、なんかこれ脱力するタイプの理由だ」
俺が苦笑すると、南さんも同じように苦笑していた。少なからず男女間の意識はしていたらしい南さんは、夢野さんのセリフに少しだけ肩を落とす。
「そうか。確かにもうすぐ暗くなるしな。ん、そうだ!俺たちも一緒に送っていこう!」
「「え?」」
何故か夢野さんと見事に声がハモった。
いやだが赤澤部長は何を口に出すんだろう。
「勿論、二人乗りはダメだぞ!だから、南の自転車には夢野が乗って、体力向上も兼ねて俺たち三人はランニングでついていくのはどうだ?」
自信満々に笑った赤澤部長に「ば、バカ澤……っコノヤロウ……!」と、また再び叫びそうになった。
どうか、裕太にはバレませんように。
そんなことを思いながら、二年生で鍋パーティーらしきものをした日の夜を思い出し、裕太だけじゃなく、二年生全員にはバレませんように……と神様への願い事を追加して念じるのだった。
48/140