目が覚めたら、そこは無機質な病室の中。
点滴の他にもいくつものチューブが私の身体に繋がっている。
というか、体中痛い。
なんだこれ
「詩織、私がわかるか?」
「……榊おじさん」
何を聞いているんだ、と私は苦々しい顔をしているおじさんに返答する。
「……よし」
短くでも嬉しそうに一言頷いてから、榊おじさんは私を抱き締めた。
おじさんのつけているポマードの香りがする。
「……あの、おじさん……お母さんとお父さんは?」
「……、……っ」
頭痛がしていた。
何か私は重大なことを忘れている。
そんな気がした。
そして、躊躇いがちに紡がれたおじさんのセリフに心臓が凍り付いたような錯覚に陥るのだった。
──両親とイギリス旅行に出掛けた私は、飛行機事故に遭った。
その飛行機事故での生存者は私だけで、両親も他の乗客もみんな亡くなったのだと。
奇跡の少女として、私は一時ニュースによく取り上げられていたらしい。
「…………嘘だ」
頬を生温かい液体が何度も濡らした。
鼻水も漏れてくる。
病室の窓から見える四角に切り取られた空は、冬の寒空だった。
夏の始まりに心躍っていた私は、冷たい風に吹かれて孤独を味わう。
すべてを奪った飛行機事故から、もう半年が経過していたのだった……。
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