もう一押し
「ほんとじゃな?!なにもされとらん?」
「……なに、も?口の中に指突っ込まれたのはなにもされてないことはないよね?でもされたとか言っていいのだろうか」
「忍足、お前さん最低じゃな?!」

詩織ちゃんの独り言らしき返答に仁王が俺を睨み付けてくる。
まぁでも確かにさっきのは最低やったような気もするから反論できひんかった。
せやかてしゃーないやろ。俺やってそないなことするつもりは毛頭なかったんやで?むしろ今回は距離感を大切にして、俺の好感度を上げていこうとかいう作戦やったし。ただあの場の流れというか、ついそうなってしもうただけやん。悪気ないし。

「不可抗力の不可抗力やで?」

先刻の詩織ちゃんの言い訳を使ったら、詩織ちゃんは難しい顔をしとった。「そ、そうなのかもしれない……」とまたブツブツいい始める。

「今度同じことされたら、噛みちぎってやればいいんじゃ」
「流血沙汰?!で、でも、確かに正しい対処法な気がするので、そうしますっ!いや二度とされないようにしますがっ」
「……もーせぇーへんって。それでなんで仁王は詩織ちゃんちに来たん?」

詩織ちゃんの独り言はいつものことやし、俺への発言が他よりも冷たいんは元々やからええねんけど、さっきから俺を非難している仁王は許されへん。大体なんでここに来たんやっちゅー話やで。

「……嫌なことがあったから夢野さんのヴァイオリン聞きたかっただけじゃ」
「仁王さん……」

しゅんっと見るからに同情を誘うような表情で肩を落とした仁王にいらっとする。
百パーセント嘘や。
嫌なことがあって落ち込んでいるときに聞きたいのは君のヴァイオリンやなんて、ただの口説き文句やんけ。しかもやで?絶対落ち込んでなんかおらんかったやろ。ただ詩織ちゃんに会いたかったって正直に言われた方が何倍もマシやわ。

「はーほー、それはそれは大変やったんやなぁ。それにしては住所とかちゃんと調べてきたなんて余裕やなぁー俺なんて落ち込んでるときにそないなアグレシッシブな行動なんか取られへんわぁ」
「……プピーナ」

なんやねん、プピーナって。
後ろに結んでる髪引っ張ったろか。

ふざけた態度に無表情になっていたら、詩織ちゃんが「あのもう、ここじゃなんなんで……」と俺たち二人をリビングに移動するように促してきた。
二人っきりじゃなくなったからか、その表情はどこか落ち着きを取り戻し明るい。
いや、仁王にヴァイオリンを聴きたいと言われて素直に喜んでいるだけなのかもしれへん。

「……ん、そうしよ」

自宅に入れたからか、仁王の表情が冷静を装いつつも僅かに輝いていた。それを横目で眺めながら俺はポツリと漏らす。

このまま好感度下げたままで終わらせるわけにはいかんし、仁王にいいところを持っていかれるのは癪に触る。それに二人っきりの時の反応から、俺は詩織ちゃんに苦手だけやのうて、好意的な方向で意識され始めとるに違いないと思った。せやから俺は氷帝テニス部(一応レギュラー用)と書かれたアプリのグループ画面に<詩織ちゃんちおんねんけど、夕食タコパせぇへん?あ、俺は今手が離されへんから、材料買ってきてな>とだけ書いて送ってやった。



萩之介<手が離せないとか何してるわけ?(笑)

長太郎<宍戸さん!!大変なことが!!

岳人<クソクソ侑士、何やってんだよ?!意味わかんねぇ?!

長太郎<忍足さん!!やめてください!宍戸さん!!忍足さんが!!

跡部景吾<アーン?なんで夢野んちにいるんだ?てめぇ、午前の部活休んだろ。ふざけるのも大概にしろよ。あと鳳も落ち着け。

樺地<ウス

宍戸<跡部も言ってる通り、長太郎は落ち着け。

萩之介<そうだよ。落ち着いて(笑)

ジロー<滝の(笑)が腹立つCー。忍足は突然の腹痛に見舞われてトイレに籠ればEー

樺地<ウス

日吉若<樺地は芥川さんに同意しているのか?とりあえず忍足さんは今から微動だにせず待っていてください。詳しくは後で問いただしますので。

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