やっぱり冷たくて怖い
お腹も満たされたので、とりあえず皆さんに頭を下げて「お疲れ様でしたー」って言ってバス停まで歩いていこうとしたら、木更津さんご兄弟に腕をがっちり片方ずつ掴まれた。

「え、映画は一緒に観ましたよ!」
「もう少しだけ付き合ってよ」
「そうそう、折角可愛い格好なんだから」

あまりの近さにかぁっと顔面が熱くなる。
亮さんと淳さんの綺麗な顔と、掴まれている腕からお二人の体温がダイレクトに伝わってきて色々と恥ずかしい。

「いやそれよりも」

このままお二人に付き合うとして、後ろにいる四人の方も一緒だと思われるんですが、そこのところはどうなんでしょうか。特にじっと涼しげを通り越して凍てつくような瞳で私を見ているクラウザーくんとかすごく怖い。
これから仲良くしようねとは言ってみたものの、その視線が真っ直ぐに射抜くような鋭さだったので、どうしたらいいのかわからなくなるのだ。過去を思い出してじわりと嫌な汗が浮かぶ。
過去は過去だと理解しつつ、どうしても彼に話しかける話題が見つからない。

「あ、そういえばさー、彼はなんでここにいるのか聞いてみてよー」

そんな私の混乱が伝わったのか、バス停近くの公園に向かって歩いている道中で千石さんが観月さんに尋ねた。
私もそれすごく聞きたいです。そしてついでに、なんで当たり前のように私たちについてきているのかも聞いてください。

「You Why to Japan?」
「To compete in the national competition of tennis」
「really?」
「yes」

その会話にふぅーっと長いため息を吐き出したのは忍足先輩だ。

「なんや自分、全国大会のために集められた留学生なんか」
「んふっ、僕の情報によると留学生を入れていて今東京にいるのは、名古屋星徳中ですね。確か大会のために七人もの留学生をいれているとか……」
「こっすいことするんやなぁ……」

何やらテニスとか聞こえたような気がするが、まさかクラウザーくんもテニスやってるとかじゃないよね?首をかしげていたら、いつの間にかバス停近くの大きめの公園の入り口についていた。
私の隣にいる木更津さんたちを交互に見たら「ジュース奢るから」と公園内へと引っ張られる。もちろん、当たり前のように忍足先輩たちも一緒だ。

「Let go of her!!」

公園内に入っても木更津さんたちに引っ張られていたら、突然クラウザーくんが大声でそう言って私からお二人を突き放した。
かなり力が強かったのか、バシッと響いた音と一気に離れたお二人に心臓が飛び跳ねる。

「It was unpleasant from a little while ago」
「何やら木更津くんたちが不愉快だったようですよ。まぁ……ずっと彼女の手と繋がっていましたしね。それででしょう」

早口で捲し立てるから英語がうまく理解できなかったけれども、観月さんの台詞に異国の地でも同じようなことがあったことを思い出して震えた。
そうだ。クラウザーくんの他に数人仲の良いお友達ができたのに、彼はその子達に水を被せたり、さっきみたいに突き飛ばしたりしたのだ。
言葉の壁があるというのに、わけのわからないその出来事に目を回したものである。

「そ、そんなことするなら、仲良くできないよ!!の、Not friend!」

「why?」

木更津さんたちが「俺らは大丈夫だよ」と言ってくれているが、やはりクラウザーくんは変わってないと思った。

「……詩織ちゃん、落ちつき」
「忍足先輩……」

私とクラウザーくんの間に立って、私の頭をぐりぐりと撫でてくる。髪の毛ボサボサになりますが。

「you──」
「おっと、calm downやで。俺、詩織ちゃんが過去になんで自分を嫌いになったかわかったわ」
「んふっ、僕も今ので充分わかりましたよ。jealousyですよね。そして……She is not aware of your feelings」
「…………it is」

ふらりとクラウザーくんの長身が揺れた。まるで眩暈でもあったかのように額を押さえて愕然としている。

「まぁまぁドンマイドンマイ!don’t mind!」
「千石くん、それは和製英語の意味で励ましですが、今の流れでいくと、クラウザーくんが彼女になんとも思われていなくても俺は大丈夫ですとかになりますよ。バカにしてるんならいいんですけど」
「うわぁ、メンゴメンゴ!あ、I'm sorry」

千石さんが慌てながらクラウザーくんに謝っても、彼は何も聞いていないようだった。
ちらりと視線だけが私の視線と絡まったので、慌てて目線を外す。
さっきまであんなに冷酷そうな表情だったのに、なんで今は泣きそうな子犬みたいな表情になっているんだろう。私が悪いんだろうか。胸の奥がもやもやして、さっき友達じゃないって強く言ってしまったことを反省した。

「あ、あの、私、やっぱり帰ります!ヴァイオリンの練習もしたいですし、皆さんもテニスの練習あるだろうし。今日はありがとうございました!さようなら!」

それだけ早口で言ってダッシュして逃げる。
皆さんから声をかけられていたが、バス停には運良く自宅近くまでいくバスが到着していたので、そのまま走って乗り込んだ。
私がバスの中で息を吐き出したと同時にバスの扉が閉まり、そのまま出発する。空いていた二人がけの席に座ったら、すぐに誰かが私の隣に腰かけた。

「……運動部なめたらあかんで?」
「ほわっ?!」

バスの中で奇声を発してしまって、はっと口を押さえる。
目の前でニヤリと笑みを浮かべた忍足先輩は「あー、詩織ちゃんち楽しみやわぁ」と勝手なことを呟いた。

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