天ぷら定食と彼女
何故、このようなことになっているのかを考えても出てくる答えは一つだけです。
それは夢野詩織さんだから。

木更津くんたちに挟まれながら、もぐもぐと海老天を口にいれている夢野さんを斜め前から眺める。

ここは和食メインのレストランであり、その個室だった。僕の並びに隣から忍足くんと千石くんがいて、前の並びは先程述べた通り夢野さんを挟んで木更津くんたちだ。
あの留学生らしいクラウザーくんとやらは、誕生日席に座っている。
ここの個室は掘炬燵になっていた。

僕も流れで食べることになった天ぷら定食の小鉢の料理を口にいれる。

「せやけど、なんで詩織ちゃん、双子くんらに挟まれてんの」
「それは元々遊ぶ予定だったからじゃない?」
「本当は三人だったんだから」

忍足くんの台詞に即座に答えたのは木更津くんたちで、二人で視線を一度合わせることもなく同時に深い溜め息を吐き出していた。
夢野さんは「んももふもんっ!」と謎の回答をしているが口に色々入っているせいで何をいっているのかわからない。

「そもそも口にものが入っている段階で話さないように!」
「……んぐ!……ごめんなさい」

お茶を飲んで僕の注意を素直に聞き入れた夢野さんにふぅっと息をついた。
まったく調子の狂う人です。

「亮さんと淳さんに騙されたんですが。でもすぐにネタバラシしてくれたし、こんな私と映画が見たいと言ってくださったのでそのまま映画を観ました!」
「俺も詩織ちゃんと映画見たかったんやけど。騙して誘ってええん?」
「忍足先輩が私を騙したらもう二度と話しません」
「あ、じゃあ俺だったらー?」
「千石さんは……きっと嘘とかつかずに直球でしかこないと思うんです」
「んー?これって信用されてるってことー?」

忍足くんが無表情で落ち込んだ後、千石くんが嬉しそうに笑っていたが、信用とか以前の話でしょうよと頭の中でつっこんだ。
いつもなら口に出すが、今ちょうど味噌汁を飲んでいたところなので出来なかったのだ。
視線を送れば、クラウザーくんもちょうど味噌汁を飲んでいる。よくよく見れば彼はお箸を使えていた。食事の仕方も日本のことを勉強しているのか普通だった。

「んふっ、クラウザーくんは食事のマナーがいいですね。Manor is good」

「I learned to her parents」

「Is……──I see」

ご両親……と複雑な顔で夢野さんに視線を向けたが、どうやら彼女はなにも聞いていなかったらしい。
その様子に胸を撫で下ろしつつも、どこかいらっとした。たぶん、クラウザーくんのこともそうだが、僕のことも眼中になく、ただひたすら夢中に食事をしているからだろうか。

「ふふふー、最近色んな人とお食事できて賑やかで幸せですー」
「「詩織ちゃん……」」

それなのに、僕のイラつきがばれたわけでもないのに、彼女が嬉しそうに顔をあげて言った台詞にイライラが収まってしまう。
忍足くんと千石くんが無意識に声をハモらせたのも面白かった。

「っていうか、色んな人とって俺たち以外にも食事したりしたの?」
「詳しく話してみてよ」
「え?やだなぁ、内緒ですよー」

木更津くんたちに悪戯っぽく笑った夢野さんに今度はモヤモヤとした何かが沸き起こってくる。
これをすべて計算でやられているとしたら、僕はもうお手上げだ。それでは彼女のシナリオに踊らされていることになってしまう。

「You guys would not it her boyfriend?I think different」
「Yes, it is a lie」
「勝手に全員を彼氏にした挙げ句、なんで勝手にまたばらしとるん?」

クラウザーくんとの会話を忍足くんにつっこまれるが気にせず会話を続けた。

「But, we I want to be her boyfriend」

「I see.Well That's rival」

僕らしくもない台詞だったかもしれない。本気でなんてまだわからない。ただ、宣言しときたかった。ライバルだと冷たい瞳の奥の熱さに見つめられて背中がむず痒くなる。
忍足くんが小さな声で「へー、それは知らんかったわー」と呟いていたが、千石くんや木更津くんたち、そして夢野さんは聞いていなかったようだ。

当初は僕のシナリオに必要な駒で、そして思い通りにいかない存在。どんどんと振り回されて、執拗に彼女を自分の手元に置きたいと思い始めた頃には、それは最早シナリオ外だったんだろう。
だけど好きかどうか聞かれたら、きっと僕の本心は彼女が嫌いなのだ。そもそも夢野さんは僕の予想範囲を軽く飛び越え過ぎて鬱陶しい。
そして嫌いだからこそ、惹かれるこの心が異様に腹立つし、本当に悔しくてたまらない。

「んー、すごい!観月さん!デザートも美味しいですよっ!!」

天ぷら定食のデザートを指差して僕に笑った彼女はあまりにも眩しすぎた。そしてふわりと漂う空気感にありえないほどの心地よさを感じる。

……どうしたら君は、僕を好きになってくれますか?

僕を、いえ、僕らだけを振り回すのはずるいでしょう。
新たに描いたシナリオで、僕は夢野さんと付き合ってあの不二くんですら僕を羨望の眼差しで見ればいいと思ったのだった。

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