それはまるで奇跡
「……うん」

病院から出て行く彼女の後ろ姿を、見えなくなるまでずっと見つめていた。

それから、再び長椅子に腰を落とす。

せっかく彼女が教えてくれたんだけど、お世話になった先生とは既に会話を終えていた。

もうとっくに神奈川の病院に戻っていてもよかったのだ。

だけど、戻らなくて良かった。

否、真田たちに感謝、かな?


「幸村、待たせたな」

「すまない。予想よりも時間がかかってしまったな」

その後すぐに、俺の元にやってきた二人組に目を細める。

真田も蓮二も俺の体調を心配しているのか、俺の様子を気にしていた。

「……問題ないよ。今日は朝から調子がいいしね。それに」

「……それに?」

蓮二が急に興味津々に俺の顔を見つめてくる。といっても、瞼は相変わらず閉じているけれど。

「……フフ、内緒」

クスッと口元に笑みを作った。

きっと、意地が悪そうな笑みになったのだろう。

真田はあからさまに目を逸らしたし。咳払いがわざとらしいなぁ。

蓮二はノートを開いてペンを走らせているけど、答えにたどり着くはずはない。

もしたどり着くことがあったとしても、もう少し先だろう。

そして、その時は俺が彼女を捕らえる範囲にまで迫っているときだ。


「……さてと、戻ろうか。……あぁ、連休の合宿よろしく頼むよ?合宿とはいえ」

「任せろ。無様な真似はせん!」

「……ならいいけど」

真田の返事を聞きながら、そっと肩をすくめる。


東京なら──
君の音色を追える。

そして絶対にまた見つけるから。

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