音色が残る夜sideA.K
「おやすみー」
「おー」
「また明日ー」

一緒の車に乗っていた深司や石田たちに手を振った。すっかり暗くなった道路は車が去るとまたやけに寂しく感じる。
街灯に照らされて家の壁に伸びる影にふぅっと長い息を吐いた。

やっと落ち着けるぜ、と頭をかく。
玄関に入れば家族全員の靴があったので、あぁ父さんも珍しく早かったのかと思った。

「ただいまー」

一応リビングに向けて声をかける。
姉さんと母さんの笑い声が響いていた。「アキラ帰ってきたみたいー」って姉さんの声もしたし、まぁいいか。
風呂場からシャワーの音がして、そっちが父さんかと考えながら自分の部屋に向かう。

部屋に入ったら脱力するようにそのままベッドに前から倒れた。
ボフッと少し固めのマットの感触に眉間にシワを寄せる。

「………………最悪だ」

それからぽつりと漏らした。
ぐぐぐっと握り拳を作り、左右で交互に布団を叩く。「あぁぁあーっ」とムダに声も出して。
いやでも、もうそれぐらいしないと心の葛藤というかモヤモヤが離れない気がしたんだ。

「何故だ、何故なんだ、俺はーっ!!」

夢野にうっかりときめいた。
しかも三回!
一日で三回も、うっかりときめくとかどれだけうっかり屋さんなんだとかそんなんじゃなくて、悔しくて情けなくて仕方がない。あんなに強くこの間宣言したじゃないか。「お前のことを俺は絶対好きにならない!」って。

そうだ。
俺が好きなのは杏ちゃんで、決して馬鹿で間抜けな夢野詩織であるはずがない。
なのに……

一回目はあの時だ。
カラオケしてるときに俺の隣にわざわざ座りたいって言ってきて、それだけならまだしも俺が持ってるデンモクを覗き込んできて顔を上げたときだった。
至近距離と下から俺を覗きこむその角度にうっかりドッキリとした。唇が触れそうなぐらい近かったせいもある。そう、あの時の胸の高鳴りは男としての生理現象に違いない。

だが二回目はそれで説明がつかない。

「それからアキラくん!」

なんであのアホは俺まで名前呼びにしようと思ったんだ。しかもなんて笑顔で俺を見るんだ。その笑顔と名前呼びに俺の心臓がドクンッと強く脈打ったんだぞ。マジふざけんな。お前は俺なんか無視して深司を見てやってくれ。もうちらりとも俺を見るんじゃない。

と思っていたのに、なんで俺はアイツを見てしまったんだろうか。
深司たちにお茶を注いでから、ふっと合わさった視線にそこから動けなくなった。

誤魔化すように「夢野もいるか?」って聞いてしまって、そりゃいるって言われたら注ぎに行くしかないわけで。大体変な返事してきたせいで、他の何人かにも見られてたし、ここで意識しているような素振り見せたらまずいだろうとか色々考えたのだ。
そばにいったら、カラオケの時に知った夢野の柔らかい匂いに目眩がした。平常心を保とうとしても熱が顔に集まってきて、しかも何故かじっくり観察しているような夢野の視線を感じたせいで余計熱くなった。ドドドっと早鐘を打つ胸元をこっそり叩く。席に戻ったら戻ったで深司に顔が赤いことを指摘され、別の意味で死ぬかと思うぐらい心臓が煩かった。

「……好き、に……なっちまったら、責任とれよな……馬鹿夢野……っ」

ゼロからのマイナススタート。
いくつスピードをあげたら、この恋のリズムに乗れるだろうか。
……なんてことを考えて「うがー、違うんだってーっ!!」って叫んだら、姉に「うるさい」と貸してたCDをケースごと頭に投げられた。

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