皆と仲良く笑った日
二年生の皆を下の名前だったり、桃ちゃんのようにあだ名で呼ばせてもらうことにした。
突然なぜかと問われると、私もよくはわからないけども、それでもカラオケして夕飯の買い物をしたりしているときに、ふっと思ったんだ。
流夏ちゃんやちーちゃんとタマちゃんのことが浮かんで、それからゆっくり皆を見回してからそうしようと決めた。
男の子と女の子の違いはあるけど、皆はいつの間にか私の大切な友達になっていたから。
せめて同じ学年の皆との距離をもう少しだけ近づいて詰めさせてもらってもいいかななんて考えたわけなのだ。

「ふへへ、美味しいね!皆でわいわい食べると本当に美味しいね!」

もぐもぐとお肉を頬張りながら喋ったから、若くんに怒られるかなと思って後頭部に気合いをいれたんだけども、何故かいつまでたっても攻撃されなかった。むしろ顔をあげて皆を見回したら「そうだな……」とか優しく微笑まれたりしてて「えっ」となる。

「夢野さん……っ」

鉄くんに至っては目尻に涙の粒を浮かばれてしまった。あ、あれか!両親のこととか色々気にされてしまっているのだろうか!

「ち、違うよ!さ、寂しくないって言ったら嘘になるけど、でもそんな!毎日寂しいとか思ってる訳じゃないから……!」

「いいんだよ!夢野さっ──詩織……ちゃん!寂しいときはいつでも俺たちに言ってねっ」

長太郎くんは私のことを名前で呼んでくれるみたいだったけど、すごく恥ずかしそうに名前を呼ぶからこっちまで照れてしまう。
あと訂正したのに全然聞いてもらえてない。

何故か雰囲気がしんみりしてしまった時だ。
不意に崇弘くんが席をたったので、トイレかなと思ったらインターホンの親機の前だった。
何事?と無言で突っ立っている崇弘くんに声をかけようとしたら、その刹那にインターホンが鳴った。この音は集合玄関からである。

「……ウス」
「え?!」

そして普通に通話ボタンを押して頷いた後、解錠ボタンを押したのだ。いや今誰が来たの。なんかすごく俺様なあの人しか想像がつかないんだけども。

「あー、やっぱ来るつもりやったんか……」

ぽそりと鍋に白菜や焼き豆腐を足している光くんが言った台詞を私は聞き逃さない。

「ひ、光くん、どういうこ──」

言葉が止まったのは、崇弘くんが玄関の扉前まで歩いていったからだ。
用心のためかけていた鍵を外して扉を開けようとしているのを見て、私もそこに走った。そうしたら、ちょうど扉が開いて、予想通り跡部様が立っていて。何故かその隣にはバネさんがいた。

「よぉ、夢野。西側の庶民が作るすき焼きを食べに来てやったぞ。黒羽は天根を探していたところ偶然会っちまったから連れてきた」
「ははは、いきなりごめんな!だけど跡部様が連れていってくれるらしいから来てしまった。しかしすげぇマンションだな!」

相変わらず爽やかな笑顔のバネさんから癒しオーラを頂きつつ、そういえばこの人ナチュラルに跡部様呼びだったと思い出す。でも跡部様に中を見られるのはすごく恥ずかしいのでここは丁重にお帰りいただこうかと考えていたら、すごい霜降の高そうな牛肉が詰められた箱を見せられて、そのまま中にどうぞと言ってしまった。ぐぬぬ、出てきたヨダレとこの意思の弱さが腹立たしい。


「ダビデくーん、バネさんが来たよっ」
「あ、本当にバネさんだ……」

それからすき焼きを食べている皆のところに戻ってダビデくんにそう呼び掛けたら、バネさんを確認したダビデくんがぎょっとしたような顔をする。
振り向いてバネさんを見た私もぎょっとした。

「ダビデぇー!!いつの間にあだ名呼びされるように!俺は、俺はっ、お前の幸せが嬉しい!」
「いやちょっと俺だけ変わったんじゃなくて全員だから。暑苦しいッス……春風だけに思い込みが遥かぜよ……ぷっ」
「ダビデぇー!!」

ガツンとダビデくんが体当たりをされていた。
賑やかな様子に目を細めてからハッとする。
ダメだ。席が足らない。
ただでさえぎゅうぎゅうだったのに、跡部様たちどこに入ればと思っていたら、跡部様とバネさんはダイニングテーブルの椅子に腰かけた。それから崇弘くんにすき焼きを運ばせる。バネさんは崇弘くんにごめんな、ありがとう!とお礼を伝えていた。崇弘くんの跡部様愛本当にどうしたら崩れるの。さっきのインターホンが鳴る前の電波受信といい、すごすぎるんだけども。


「……っ、う、うっま!何これ溶ける……!」

それから赤也くんの言葉通り、私たちは衝撃を受けた。
跡部様の持ってきた牛肉がものすごくとろけるほど美味しかったからである。もうお口にいれた瞬間いなくなるってどういうことだろうか。
っていうか、そんなお肉を大量に持ってきてくれた跡部様は神か!というか私たちがスーパーで購入したお肉の行き場のなさよ。

「お、俺、生きてて良かったぁ……」

一郎くんなんて感動して泣いている。
その顔がふにゃってしてて可愛かった。つい私も一緒にもらい泣きしてしまう。

「俺、兄貴に自慢しよう……」
「俺も姉貴に……いや、内緒にしてないと殺されるな……」

写メを撮っている裕太くんの横で十次くんが遠い目をしてた。

「ふしゅうぅ、跡部さん、本当にありがとうございます」
「ほんと、こんな旨い肉初めてっすよ!」

薫ちゃんと桃ちゃんは跡部様にお礼を言っていて、薫ちゃんのきっちりとした性格についニヤニヤしてしまう。いやでもやっぱり薫ちゃんはすごくいい子だと思うんだ!

「はぁー、俺はもうお腹いっぱいー」
「喜多と同じく俺ももうムリー」
「んじゃあ森の分まで俺食べる」

一馬くんと辰徳くんがお腹いっぱいだと言った頃には、私のお腹もだいぶいっぱいになってきていた。皆を見ながら少しずつ食べていたけど、やっぱり高いお肉って油が多いからかすぐにお腹にたまる気がする。二人を尻目にもぐもぐと食べている雅也くんは野菜とかもしっかり食べていてご飯もおかわりしていた。

「深司ー、ほらお茶」
「ありがとう、神尾」
「あ、俺にもくれ」
「内村に入れたらこっちも頼む」

アキラくんは何故か皆のお茶をいれていて、鉄くんのコップに注いだあと私にちらりと視線を向ける。

「夢野もいるか?」

「あ、お、お願いしやっす!」

「突然何キャラだよ」

ふっと笑いながらアキラくんが移動してきて、私の後ろに膝をついてペットボトルからお茶を注いでくれた。
カラオケの時みたいにすぐそばでアキラくんの息づかいを感じたけど、今は落ち着いている。もう当人の若くんだって気にしてないみたいだし、私も気にしちゃダメだ。
それにアキラくん自体は何もしてないし、むしろ彼にはこの間の合宿で「お前のことは絶対好きにならない」と発言されている。
そんな彼を意識なんてしたら、今度こそ嫌われるんじゃないだろうか。

「……神尾、なんでそんな顔赤いのさ」
「え、いや!すき焼き鍋の熱気が!熱くてっ」
「ふーん……別にそういうことにしとくからいいけど……」

アキラくんが深司くんの隣に戻ったときの会話は私にはよく聞こえなかった。

「ふぐー、もうダメっぽい……」

「まぁ……ムリはするな」

もうお腹の限界だーと箸を置いたら、若くんが椎茸を食べながらそう言ってくれて。思わず頭の中で共食いかな……とか失礼なことを考えたことを心からお詫びする。

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